何かをつくる過程で使われずに残ってしまったような土地や、何かの理由で利用や開発を控えている土地がある。
これらの土地は、「デッドスペース」*1と呼ばれることもあり、これからも使われないままにされる可能性が高いだろう。
このブログで紹介していくデッドスペースに似たものとして、赤瀬川原平をはじめとする芸術家たちがつくった「超芸術トマソン」という概念がある。
これは、ある芸術家の作品をもとに生まれたものではなく、路上でみられる階段やガードレール、窓、門などの様々な工作物を観察することで発見された魅力や美しさ*2を意味している。
そこでは、何らかの事情でそれ本来の機能が封じられてしまった路上の工作物や、補修や改築などにより意図せず残ってしまった物の痕跡などを「超芸術トマソン」として扱っている*3。
たとえば、無意味な場所に存在し、階段本来の役割を果たしていない階段を「無用階段」と名付けたり、何かに塞がれて使えなくなった門の痕跡などを「無用門」とよんで分類している*4。
そして、この概念の中に「境界」とよばれるものがあり*5、ガードレールで囲われた目的不明の狭い閉鎖空間を「空間のトマソン」と名付けている*6。
橋の下のデッドスペース
写真は、歩道橋の下にある空き地である。
ここはまさに、「空間のトマソン」に当てはまりそうな場所だ。高架の下にできた空き地は、駐輪場や駐車場などに有効利用されることがある。しかし、この空き地はガードレールで塞がれているため、しばらくの間使われることはないだろう。
また、ガードレール内にあるタイルに注目すると、それなりにデザインが凝らされジグザグの形につくられている。おそらく、橋が造られた当初はここもオープンスペースになっていたのだろう。しかし、屋根付の空間は物置き場や駐輪スペースなどにも向いているし、勝手に誰かが利用してしまうかもしれない。その可能性を考えて、あとでガードレールを作ったとも推測できる。
幼い頃、友人達とこういう屋根付のデッドスペースを見つけ、そこに段ボールやレジャーシートなど持ち込んで秘密基地にしたことがある。その時は、大人達の住む世界とは別の、独立した自分たちだけの空間をつくれた気がしてわくわくしていた。今でも当時の秘密基地に感じていた自由な雰囲気を、何にも使われていない空き地に感じることがある。
前述したように、デッドスペース観賞の面白さは、生まれた理由について色々と推測できることにある。
もちろん、私のように無用な空間に漂う雰囲気そのものに魅力を感じる人もいるだろう。
そのほかにも、例えば四ツ谷駅前の空き地 - 空き地図鑑のように、眺めて楽しめる珍しい姿をしたデッドスペースもある。
(no.16 茨城県龍ケ崎市)
(その他の「境界」の空き地について →「超芸術トマソン」の空き地 2 - 空き地図鑑)
デッドスペース化した一画
デパートの本館と別館の間にあった、デッドスペース化しつつある一画である。
ここは地上2階にあたり、この下には交通量の多い道路が通っている。そこにある歩道橋を登ってくると、この写真の場所に出る。
写真の手前から左端にかけて、視覚障害者用のタイル貼り歩行路が設けられているが、それに沿って左奥へ進むと駅前の広場に出る。しかしこのスペースは、この通行路以外は全て行き止まりである。
白い花柄のタイルが敷かれた一画はそれなりの広さがあるが、ベンチや灰皿などが設けられておらず、休憩場や喫煙スペースではない。
実は、ここは近年行なわれた改修工事に伴い、エスカレーターや階段(左奥のガラス板の柵付近)が新設された場所である。したがって、写真の一画は、もともとは広い通路として使われていたものが、再開発によってデッドスペースになってしまったと考えられる。
交通という機能を無くした空きスペースには、何となくさみしい雰囲気が漂っていた。
(2015年撮影。)
※以下、2020年1月4日追記
それから4年ほど経過した頃、このスペースに変化があった。
前述したように、地上部から歩道橋を登ってこのスペースに辿り着くのだが、その歩道橋が閉鎖されてしまったのである。
塞がれたこのスペースと歩道橋との接続部分。
地上に出てみると、トマソン化した歩道橋があった。
先ほどのスペースにつながる通路。
以前は細い通路としての機能がかろうじてあったが、いまや完全なデッドスペースになってしまった。
しかし、私は通勤中にこのそばを通るのだが、以前よりもここに入る人が増えた気がする。
スマホで通話してる人、奥の手すりにもたれて会話するカップル、何かを食べながら休んでいる人など4、5人がここに集まっている日もあった。
私だけでなく、デッドスペースに落ち着き感じる人は意外に多くいるのかもしれない。
(no.17 千葉県柏市)
*1:「デッドスペース」とは、「有効に使えない無駄な空間・場所」という意味である。(松村明・三省堂編修所編『大辞林 第三版』、三省堂、2006年、1730頁。)
*2:赤瀬川原平『トマソン大図鑑 無の巻』筑摩書房、1996年、「トマソンとは何か?」21頁。
*3:前掲、赤瀬川原平『トマソン大図鑑 無の巻』、17〜21頁。および、赤瀬川原平『トマソン大図鑑 空の巻』、筑摩書房、1996年、「トマソン探しの楽しみ」8頁を参照。
*4:前掲、赤瀬川原平『トマソン大図鑑 無の巻』の23〜79頁に掲載されている「無用階段」と、81〜147頁に掲載されている「無用門」を参照。
*5:前掲、赤瀬川原平『トマソン大図鑑 空の巻』の217〜249頁には、「何を仕切っているのか推察不能」のガードレールや柵などを「境界物件」と命名して分類している(同書219頁)。
*6:前掲書、222頁。