余ってしまった土地を観察する2〈中編〉 - 空き地図鑑 の続き。
後編では、路上にある余ってしまった土地を5か所紹介し、最後に前編〜後編で紹介してきた空き地を、性格や成り立ちをもとに分類してまとめとしたい。
路上の余った土地
10. 痕跡を残す三角地
道の端に不自然に残された三角形のスペース。
過去の空中写真やストリートビューなどを確認してみたが、かつて何があったかはわからなかった。
この三角スペースには境界標が見当たらないので、独立した区画ではなく道路にあたると考えられる。
スペース内にはプランターが2つ置かれており、地面には謎の四角い痕跡が残されている。一体何が置かれていた跡だろうか。痕跡の周縁にはコンクリートブロックが埋まっているので、これを基礎として壁が立っていたのかもしれない。
隣にもう一つの痕跡が残されている。先ほどのものに比べてサイズは少し小さい。
ここを観察していて気づいたが、写真奥に缶やペットボトルが入った網がある。
つまり、一つの仮説だが、この場所はゴミ集積所の跡地であり、地面に残る四角い痕跡はゴミの分別のために設けられたボックス跡ではないだろうか。
スペース内に置かれたプランターはどちらも使われている様子がない。
端から見たスペースの全体像。
過去の痕跡の隙間には常緑樹が根付いていた。
(no.497 東京都)
11. 分岐点の小デッドスペース
車線の分岐地点(黄色のブリンカーライトの後ろ)にある小さな閉鎖スペース。
一見したところ交通島にも似ているが、ここはその一種だろうか。
交通島の空き地については以前記事にしたことがあり(交通島(こうつうじま)の空き地 - 空き地図鑑)、その定義は道路構造令に記されている(以下)。
「交通島 車両の安全かつ円滑な通行を確保し、又は横断する歩行者若しくは乗合自動車若しくは路面電車に乗降する者の安全を図るために、交差点、車道の分岐点、乗合自動車の停留所、路面電車の停留場等に設けられる島状の施設をいう。」*1
ここに書かれているように、「島状の施設」というと通常は下の写真のような道路から一段上がった土地をイメージするだろう。
つまり、先のガードレールで閉鎖された空間は、おそらく交通島とは呼ばないのではないだろうか。
スペース内の様子。周りはガードレールで囲われているので、交通島のように人が立ち入ることは難しい。なお、スペース内にあるゼブラゾーンのような白線は、「安全地帯又は路上障害物接近」を示すもののようだ。
(no.498 東京都)
12. 使われていない道路①
新宿駅前の閉鎖空間
これは新宿駅東口を出てすぐの場所にある閉鎖された道路。
かつて、この道路は新宿駅東口のロータリー(ルミネエスト新宿前)につながる車道だった。しかし、写真左側に新しく歩行空間が整備されたことにより、その車道が分断され、この旧道部分が余ってしまったようだ*2。
ここに掲載している写真は、全て2022年3月に撮影したものだが、撮影時点で既に1年くらい閉鎖されたままである。今後、この一画がどのように整備されるか詳細不明だが、2019年の区の資料によれば、写真奥の突き当たり(白い壁が立っている)付近に駐車場が新設されるようだ*3。
なお、2022年12月1日に再訪したところ、ここは閉鎖されたままだったが、奥にあった工事壁が手前の方まで移動しており、工事エリアが拡大している様子だった。
この旧道部分は、将来、駐車場の出入り口通路になるのだろうか。あるいは何か他のもの(歩行者空間など)になるのだろうか。
敷地内の様子。突き当たりの白い壁の中は工事中のスペースと見られ、その奥に新宿駅の建物がある。
通行止めの柵に掲げられた標識。よく見ると印刷ではなく手作りの模様。
カラーテープで器用に文字が書かれている。目立つように赤と緑の補色でデザインされている点も良い。
この文字もテープで書かれている。あまり見たことがないデザインだが、もとになる書体があるのだろうか。
なお、これは先述した工事スペース(右)と新宿駅の建物(左)の間にある空き地。
都会の片隅ならではの、きれいとはいえない空間。おそらく、工事スペースための管理用地と駅舎保護目的の緩衝地を兼ねているのだろう。
(no.499-500 東京都)
13. 使われていない道路②
閉鎖された小道
農地が広がるエリアに閉鎖された歩道(右側)があった。
最近、写真の左側に新しい道路が敷かれたが、かつてはこの歩道が奥への通り抜けに使われていた模様*4
新しく敷かれた道路。
閉鎖スペース内の様子。
アスファルトは経年で傷んでおり、ひび割れから雑草が生えている。新道が敷かれた辺りには、もともと水田が広がっていた。この閉鎖された歩道は、当時農道として使われていたと考えられる。なお、今もこの道の右側には農業用と思しき水路が通っている。
道路の突き当たりには真新しいフェンスが設けられている。つまり、ここは今後も一般に開放される機会はなくデッドスペース化するか、あるいは何らかの道路施設が整備されると考えられる。
(no.501 茨城県)
14. 使われていない道路③
これは、立川駅前のデッキ上にある閉鎖通路。
通路先(写真奥)の施設が無くなったために、一時的に取り残されているスペースである。かつて、この通路の先は地上の駐輪場につながっていた。しかし、2019年頃にそれが解体され、撮影時(2020年)にはその跡地で新しいビルの建設工事が始まっていた。
閉鎖通路内の様子。奥の突き当たりは工事用フェンスで塞がれている。
横から眺めると、虚空に向けてのびる姿がシュールである。
なお、建設中の新しいビルは都と立川市の合同施設になるようだ。
そして、2年後(2022年)に再訪すると奥の施設が完成していた。
この新しい施設は東京都と立川市が合同で建設し、市の情報発信センター、カフェ、有料駐輪場などが入って、今年(2022年6月)オープンした。撮影時はオープン前だったため通路はまだ閉鎖中だったが、現在は開放されているようだ。
(no.502 東京都)
まとめ
前編、中編、後編を通して、街にある「余ってしまった土地」14か所を紹介した。
前編記事の冒頭にも述べたが、ここでもう一度「余ってしまった土地」の定義を示したい。ここでは、下記の2つの性格のどちらか(あるいは両方)に該当するものを「余ってしまった土地」と見なしている。
(1)何かをつくったり、整理したりすることで生まれる余った土地。
(2)特殊な事情により、恒常的にデッドスペース化していると見られる土地。
ここで紹介した14か所の土地は、(1)と(2)両方の性格を併せ持っているものもある。しかし、ここでは、どちらの性格が主となっているかを検討し、分類を試みた。この結果を最後に述べてまとめとしたい。
(1)の性格が強い土地
(1)の性格が強い土地は、上の写真の8か所(No.4、6、8、9、11、12、13、14)。
4は事業所、6は駐車場、8は多叉路、9は新道、11は分岐点、12は歩道空間、13は新道、14は公共施設をつくる過程で生み出されたものと考えられる。ここに分類した土地は成り立ちが明らかなものが多い。しかし、それらを個別に見ていくと、それぞれ姿が異なり、固有の歴史を持っている。また、将来における再整備・再利用の見通しも一定ではない。なお、8(中段左)の成り立ちは、第一に多叉路をつくったことで生まれたと言える。しかし、デッドスペース化している理由の一つには、地中に水路が通っていることで再開発しづらい事情もあるのだろう。その意味では(2)の性格も併せ持っていると言えそうだ。
また、8(中段左)と11(中段右)は、道路を構成する部分であり、多叉路や分岐点の構造を成り立たせているという意味では一定の役割を担っている土地だ。ただ、そのスペース自体には生まれた当初から利用目的がなく、純粋な”虚”の空間としての魅力がある。
(2)の性格が強い土地
(2)の性格が強い土地は、上の写真の5か所(No.1、2、5、7、10)。
もちろん、これらの区画自体も、もともとは区画整理事業や何かをつくる過程で生み出されたと言える。しかし、それが現在余ってしまっている(デッドスペース化している)理由は、それぞれの区画固有の特殊事情が主因と考えられる。
具体的には1、2、5、10(上段2枚と下段右左)は狭小地、不整形地、特殊な立地にあることなどが再開発・再利用されない原因と考えられ、7(下段中央)は管理者の事情によりほとんど利用されていない実態が窺える。
なお、これらの土地は成り立ち不明な点が魅力である。しかし、現地に残る過去の痕跡や航空写真をもとに推測すると、1と2は防災用地跡、5は生活用通路跡、7は使われていない作業場または物置場または休憩スペース、10はゴミ集積所跡地と考えられた。これらの推測が正しいのかわからないが、いずれにしても、かつてそこが何に使われていたのか、なぜ使われなくなったのかなど、過去の人の営みについて想像を巡らせる面白さがある。
(1)と(2)の性格が同程度と見られる土地
最後に、(1)、(2)両方の性格が同程度に感じられた土地を紹介したい。それが上の写真に示す3の土地である。
もともと、この場所には広い住宅地があったのだが、それが道路新設によって分割され、余ってしまった残りものがこれである。しかし、これだけが余っている理由ではない。この土地の大部分が長期間開発・利用されない事情は、ここが当地域の住宅地としてはやや狭く、活用しづらい不整形地であるためと考えられる。
*1:出典:e-Govウェブサイト 「道路構造令」第二条十七号https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345CO0000000320#4)2022.11.29.閲覧。
*2:参照:TRAICY「JR東日本、新宿駅東口前の歩道拡張 広場再整備へ」https://www.traicy.com/posts/20200602170467/(2022.6.7.閲覧)
*3:新宿区公式ホームページ「新宿駅直近地区に係る都市計画案について 都市計画案(都市施設・地区計画・用途地域・土地区画整理事業)(2019年9月20日)https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000269580.pdfの7頁参照(2022.11.25.閲覧)
*4:国土地理院HPの「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp)にある空中写真の「年度別写真」2008年を参照したところ、この歩道の突き当たりには水路があり、そこに橋がかかって奥の土地へ渡れるようになっていた。