本ブログでは過去の痕跡が残されている空き地を「無名の遺跡」と呼んで紹介している。
この種の空き地を訪れると、どの場所においても、人がいなくなってから経過した時間について思いを馳せることになり、無常さを感じる。
また、場所によっては、その土地を利用していた人々の残留思念が敷地内に微かに漂っているように感じることもある。
ただし、空き地は廃墟と異なり、人の営みの痕跡がはっきりと残されていることが少ないため、それほどおどろおどろしさは感じられない。
もちろん、残置物の多さゆえに幽霊屋敷のような異様な雰囲気を漂わせる「無名の遺跡」も存在する。
なお、文学作品においては、不気味な建物跡地が怪談の舞台になることがあり、その例は『空き地学』vol.3掲載のコラム「空き地の神秘性」でも取り上げた。
本記事で紹介する石材店跡地は、前述した不気味さは一切なく、芭蕉の俳句「夏草や兵どもが夢の跡」で表現されているような、静かな無常観を覚える場所だった。
石材店跡地
広々とした水田地帯に、ぽつんと細長い空き地がある。
ここはかつて石材店が営まれていた場所だ。
150坪ほどの敷地は南北に伸び、その表面はコンクリートで舗装されている。そして、傷んだ地面には直線的な亀裂や隙間がいくつも生じており、まるで間取り図のように敷地を分割している。
こうして区分けられたいくつかのスペースには、過去の痕跡が撤去されずに残されている。その姿は、さながら残置物の展示会場のようだ。そして、それぞれの佇まいを観察すると、何とも言えない味わい深さがある。
敷地の南側の様子。
ここには白色の四角い舗装面があり、その隣にわずかな段差ができている。
石材を加工したり、洗浄するための設備跡だろうか。それとも、完成した作品を展示していた場所だろうか。
敷地の南端には、御影石と思われるタイルが敷かれた一角があり、同じ石で作られた壁が一部だけ残されている。
拡大した様子。
石材が置かれたそばにガス管らしきパイプが見える。また、近くには立水栓も残っている。このタイルが敷かれた一角は、かつての屋内展示場の跡かもしれない。
タイル張りがあった場所の手前(敷地の南端付近)には、トイレの蓋と思しきもの、割れた石材、プラスチック板などが放棄されている。これらも、かつて店で使われていたものだろう。
敷地の南端付近から見た、北方向に伸びる敷地の様子。
この空き地で最も目を引いた残置物。
敷地の中央付近に、なぜか郵便受けがポールごと自立したまま残されている。敷地の端(道沿い)に設置されることが多いので、何とも不思議な光景だ。もちろん、この位置に店の出入り口があった可能性もある。
すでに郵便物が配達されていることはないと思うが、この姿には「もしかしたら…」と思わせる妙な存在感がある。
郵便受けそばの地面には石の壺が転がっている。
お墓用の花立てだろうか。
細長く伸びる空き地の中央付近の様子。
奥に広がる農地との境目あたりに、劣化したプラスチック製のケースや廃材が集められている。これらは不法投棄された可能性があるが、ところどころに薄い石材も混じっていることから、店の残置物とも考えられる。
そして、これらの人工物に混ざって、ツゲらしき樹木(左)と、低く切られたクスノキと思しき樹木(右)が生えている。
ツゲと見られる樹木は太い幹が見えるので、店で育てていたものを閉業時(あるいは解体時)に切ったのかもしれない。
敷地の中央からやや北側に進む。
すると、そこには配線の切れた古い照明が静かに佇み、ここにもツゲらしき細かい葉の低木が生えている。この照明は蛍光灯で、おそらく夜間に屋外展示物を照らしていたのだろう。
ちなみに、照明の右側に切れていない配線が伸びているが、それは使われていない仮設電柱に繋がっているため、すでに電気は通っていない。哀愁漂う姿に、使われなくなってからの時間の経過を感じる。
照明が立っていた場所からさらに北に移動すると、地面に何かの土台らしき痕跡が2つ残っている。その上部には金属部品が取り付けられているが、これが何の痕跡なのか皆目見当がつかない。
敷地の北端に近づくと、雨樋らしきパイプや古タイヤが置かれている。
この雨どいは店の建物に取り付けられていたものだろう。
敷地の手前(道路)側に残る支柱。
看板を支えていたものかもしれないが、確信は持てない。敷地を囲う柵に使われていた可能性もある。
ここが敷地の北端。
細長い台状の遺構が残っている。これは墓石などの大きな商品を陳列していた場所ではないだろうか。
台の隣には、2つの庭石らしきものと、ロープで縛られた切り株が残っている。
すでに店で植えたと思われる樹木を何本か紹介したが、ここに生えていた樹木も店を彩るために植えていたものと推測される。
北東の角から見た空き地の全景。
奥に立っている建物は飲食店で、その駐車場がこの空き地に隣接している。
空き地の北西角の様子。
写真右端に、先ほど触れた使われていない仮設電柱が残されている。そして、ここにもツゲらしき樹木が生えている。


なお、飲食店との境界付近にも、大きなツゲと思われる樹木が生い茂っていた。
同種の樹木は、これで合計4本も確認できたことになる。
他にも低く切られたクスノキらしき樹木も残されていたが、いずれにしても、営業時の店の様子を知っているのは、今や敷地内に生育するこれらの樹木だけだ。
(no.602 茨城県 撮影日:2026年5月19日)