③ 何もない
ここでは目につくものがない、あるいはほとんどない空き植栽地を紹介したい。
(※前編はこちら → 使われていない植栽地4〈前編〉 - 空き地図鑑 )
●小さな空き花壇
店の裏口にあった使われていない花壇。
ここには、目を引くものはわずかに生える雑草くらいしかない。
しかし、土の状態はきれいに保たれており、それなりに人の手が入っていると思われる。もし全く手入れされていなければ、もっと雑草が蔓延り、荒れてしまっているだろう。
彩りがなく殺風景だが、なぜかこの無機質でガランとした姿にも美しさを感じる。
(no.387 茨城県龍ケ崎市)
●影の薄い空き花壇
店と店の隙間に、キューブ型の使われていない花壇があった。
そもそも使われていない花壇は目立たない存在だが、これは隙間にフィットしているせいで余計に目立たない。通勤で日常的にこの前を通っていたのに、今まで全く気付かなかった。
なお、この花壇の後ろには白い板で壁がつくられている。こういう場所に細長い扉を付け、関係者が出入りできるようにすることもある(下の写真参照)。しかし、ここにある白い板は扉ではなさそうだ。
(隙間に設けられた扉。こうしたスペースは、壁面管理のための通路としても使われる。)
上から見た花壇の様子。
ここには店先を飾るおしゃれな植物が植えられていたのだろう。それが何かの原因で枯れてしまい、こうして放って置かれていると考えられる。
また、ここをゴミ箱として使う者もいるようだ。商品の値札やお菓子のプラ容器が捨てられている。
通りから見た姿といい、この境遇といい、何とも言えず哀れである。
(no.388 東京都武蔵野市)
●植え替え中の花壇
商店街の歩道にあった使われていない花壇。
この歩道上には同じデザインの花壇がいくつも置かれていて、季節ごとに花が植え替えられている。この花壇も植え替えのために一時的に使われていないのだろう。
土の上に抜き取られた花の残滓が見える。
同じ歩道上にあった利用されている花壇。
(no.389 東京都武蔵野市)
●表土が固まっていない植栽地1
①雑草の分類でも紹介した歩道上でよく見かける植栽地。
この歩道にある他の植栽地では、ツツジが植えられていた。
この植栽地は表土が固まっておらず、人の手が入ってからあまり時間が経過してないように見える。おそらく、植え替え作業中の植栽地ではないだろうか。
(no.390 東京都小金井市)
●表土が固まっていない植栽地2
同じく、表土が柔らかそうな植栽地。
これは集合住宅前の公開空地らしき場所にあった(下の写真参照)。
デザインから考えると、植樹枡として使われていたものだろう。何も痕跡が残されていないので、どんな木が立っていたか想像もできないが、敷地が狭いので切られてしまったのではないだろうか。今後は花壇として使われるのかもしれない。
(no.391 千葉県柏市)
●表土が固まっていない植栽地3
歩道にあった空き植樹枡。
表面は雑草に覆われておらず、土も固まっているようには見えない。これも、木が取り除かれてからあまり時間が経っていないのだろう。
歩道の様子。将来、再び利用される機会は訪れるだろうか。
(no.392 東京都中央区)
●表土が固まっている植栽地
この二つの植栽地は表土が固まっており、枯れた雑草が根を張っている。使われなくなってから一年以上は経過しているのではないだろうか。
先に紹介した表土が柔らかそうな植栽地とは対照的に、植え替えが行われる気配はほとんど感じない。
(no.393〜394 茨城県龍ケ崎市)
●潰されてしまった植栽地
アスファルトで舗装された三角形の交通島。
実は、ここはかつて植栽地として利用されていた土地である。
二つ目の角から見た様子。
三つ目の角から撮影。
この空き地は、舗装されても交通島としての役割が残されている。しかし、実際には敷地内が利用される機会はほとんどないだろう。なお、舗装されたのは最近で、2019年末までは下の写真のような姿をしていた。
2019年12月の様子。この頃も雑草に覆われて使われていなかったが、7年ほど前(2013年4月)のストリートビュー画像には、4株のキョウチクトウと10本以上の低木が写っており、植栽地として使われていたことがわかる。(以下、Google マップのストリートビュー参照)
https://goo.gl/maps/3ejhyn5eeGTPQ4j4A
(no.395 茨城県龍ケ崎市)
④ 園芸の痕跡
ここでは、柵や支柱などの園芸の痕跡が目を引いたものを紹介したい。
●取り残された小さな柵
店の壁と歩道の間に雑草が生えた細長いスペースがある。
スペース内にはマンホールやハンドホールが設置されているが、右端には紫色の花をつけたチェストベリーが植えられており、植栽地としても使われていることがわかる。
そして、このチェストベリーの隣に小さな柵が残されていた。
幅30センチ、奥行き20センチほどの花壇。
おそらく、隣接する店のオーナーが趣味で何かを育てていたのだろう。
想像に過ぎないが、隣のチェストベリーを植えた際、この花壇も一緒につくられたのではないだろうか。このサイズから考えると、それほど大きくはならない草花が植えられていたと考えられる。
しかし、現在はこの花壇の存在自体が忘れ去られているようだ。他に園芸用品が残されていないか辺りを確認したが、これ以外は何も見当たらなかった。
(no.396 茨城県龍ケ崎市)
●ミニ円形花壇
同じく、使われている様子がない小さな花壇。
廃材と思しき割れたブロックや石を並べてつくられている。中に生えている草はおそらく雑草だろう。
かつては何が植えられていたのだろうか。
引いた場所から撮影。
実は、この円形花壇は歩道の植栽帯の中に設けられており、似たような円形の囲いが他にもいくつかある。それぞれ別の植物が育てられているが、この時は一つだけ(一番右奥のもの)が使われていなかった。
他の円形花壇を観察してみる。
これは囲いの一部が残されており、残りは崩れてなくなっている。
写真右上のブロックの上に小石がいくつか置かれているが、それがこの囲いに使われていた石だろう。また、よく見ると痩せたオタフクナンテンのような赤い葉の植物がある。おそらく、この花壇はこの植物のためにつくられたのではないだろうか。
この円形花壇には何かの苗が植えられている。また、囲いは少し崩れかかっている。
ブロックの穴に小石が詰められているが、何か意味があるのだろうか。
植栽帯の全景(一年経過して撮影)。
この植栽帯はもともと自治体が設けたスペースではないだろうか。しかし、今はこのように個人が管理しているよう見える。
写真の右手前、細い支柱が立っている辺りから個人が作った花壇と考えられ、これは左奥に立つ電柱の辺りまで続いている。
反対側(電柱側)から見た花壇の様子。
植えられた様々な草花。
電柱のさらに奥にも、この花壇が続いていた。
育てている植物の種類が多く、管理者の園芸に対する情熱が伝わってくる。
それにしても、この花壇は誰が管理しているのだろうか。
歩道に設けられた植栽地は、市が直接管理せず、町内会などの団体が植え替えや管理を行うことがある*1。
また、ある自治体の制度では、1名からでも自主管理者になり、公園・歩道での清掃や花壇管理ができるようだ*2。
その他、2名以上から参加できる「京都市街路樹サポーター制度」*3を活用し、市と協議の上で植栽許可が得られるケースもある*4。この植栽地がある龍ケ崎市でも「公共施設里親制度」と呼ばれるものがあり、ここはその一環で使われている可能性がある*5 。
一年ほど経過して、使われていない円形花壇がどうなっているか確認してみた。
しかし、すでにその姿はなく、代わりにセージらしき紫色の花が植えられていた。
ところが、近寄ってみると草陰にブロックが積まれていた。確認したところ、これがあの円形花壇のパーツのようだ。
(no.397 茨城県龍ケ崎市)
●取り残された支柱
森林公園(左側)の敷地の端に、使われていない花壇が二つ、ひっそりと佇んでいた。
一つ目の花壇の様子。
約1m四方の範囲が木の杭とひもで仕切られている。
訪れたのは8月だが、実は昨年の同時期、この花壇には百合の花が咲いていた。
今年はなぜ放って置かれているのだろうか。
斜面の上から見た様子。
中は笹に覆われてしまっている。支柱が5、6本残されているので、昨年はその分だけ花が咲いていたのだろう。
花壇を仕切る支柱にはビニールテープや麻紐が巻かれ、それなりに手間をかけて作られたことがわかる。
そして、これが二つの目の花壇。先の花壇と同サイズで、同じく笹に覆われてしまっている。
しかし、百合は多年草なので、植えた翌年以降も勝手に生えてくることが多い。
笹の中には所々枯れた茎がある。よく見ると、去年咲いたものの残骸と、今年生えたものが交ざっているようだ。
去年咲いたものと思われる茎。支柱に固定されたままになっている。
(左)去年のものと思われる百合の実。カラカラに枯れて種も入っていない。
(右)今年自然に生えたと考えられるもの。茎の先に青い実がなっている。
それにしても、これらの花壇は誰が設けたのだろうか。
造りや規模から推測すると、自治体が設けたというよりも、個人が設けたものに思える。ひょっとしたら、付近の住人が勝手につくったものかもしれない。
(no.398 茨城県龍ケ崎市)
おわりに
使われていない植栽地の観察をとおして、植栽が中断・中止される様々な理由について窺い知ることができた。そして、それとともに植物を育てることの難しさも、限定的ではあるが感じられた。
ここでは、植栽が中断・中止される理由と、それぞれの空き植栽地の印象についてまとめたい。
【植栽が中断・中止される理由】
植栽が中断・中止される理由について、わかったことや推測できたことをまとめたい。
1. 植え替え作業中のため一時的に中断している / 植栽時期が限定されているため中断している
役目を終えた植物を取り除き、新しい植物を植えるまで、そこは一時的に空き地となる。空き地になっている期間は場所によって様々で、短時間で植え替えが完了する植栽地もあれば、新しい植物を植えるまで長い間空けられている植栽地もあるだろう。
また、管理しづらい真夏や真冬など、ある期間を避けて使われないケースもある。
2. 管理コスト削減のために中断・中止された。(自治体/個人の事情)
●維持管理に費やす財政(/金銭)的余裕がない。
●水やり、追肥、落葉の清掃、剪定などの日常的な手間を省きたい。
●落葉、落枝、日陰などによる近隣からの苦情(や被害)に対応するコストを省きたい。
3. 植物に問題が生じたために中断・中止された。
●病害虫の発生が原因となり取り除かれた。
●倒木や落枝の危険を未然に防ぐために取り除かれた。
●根の成長による道路損傷、枝葉の成長による電線や近隣建物への被害、葉の生育による交通環境の悪化(視界不良)などへの対策として取り除かれた。
●台風などの災害による倒木、老齢による倒木、立ち枯れなどの自然的要因によって死に絶えてしまった。
4. 管理者の個人的な事情による中断・中止
●管理者が植栽に興味を無くしてしまった。
特に個人の管理者の場合、徐々に植栽(園芸)に興味を無くしてしまうケースも多いのではないだろうか。2.で述べた管理の手間が面倒に感じられたり、3.の理由によって興味を無くしてしまうケースも考えられる。
●管理者の引越し、疾病、死去などの理由による中断、中止。
それまで管理していた者の不在によって植栽(園芸)が行われなくなった。
このように、使われなくなった理由として様々なものが挙げられる。
使われていない植栽地を観察すると、設置者が何を期待して植栽したかある程度想像できるし、植物を育てることの難しさも感じられる。
植栽する前に、その良い面(植物から受ける恩恵)と悪い面(手間やリスク)のバランスを検討することは大切だが、扱うものが生き物である以上、育ててみないとわからないことも多いだろう。しかし、このような数多くの中断・中止という経験を経て、植える植物の種類、植栽地の構造、管理方法などが検討され、広く社会における植栽のあり方が変化(あるいは進化)していくのだと思う。
また、この記事では、公共の場所(歩道や公園)に設けられた個人またはボランティア管理のものと思われる花壇を紹介した。似たようなものを他の街でも見かけたことがあるが、この記事で触れたような自治体の制度*6に則って管理されているケース、個人が勝手に設けたケースがあると考えられる。いずれにしても、個人が管理する植栽には親しみやすい雰囲気があり、自治体が管理するものにはない魅力を感じる。
【それぞれの空き植栽地の印象】
この記事では使われていない様々な植栽地を、外観の特徴をもとに分類して紹介した*7。最後に、それぞれの印象についてまとめておきたい。
① 雑草 に覆われた植栽地の姿は、長い間放置された状態を表している。そのため、しばらくそのままの状態が続きそうに見えるため、再利用される気配をあまり感じない。
また、植栽地によって生えている雑草の種類や密度(成長の勢い)が異なることが特徴といえる。そして、この植生は時間の経過とともに変化すると考えられる。また、天然の箱庭やグランドカバーとして観賞できるような魅力的なものもある。
② 切り株 が残された植栽地は、かつてそこに立っていた木の姿が想像できる分、切られてしまったことの寂しさを感じる。また、そこを整地する際には、株を完全に枯らせたり、地中に張った根を取り除く工程が必要になる。そのため、再利用までにある程度の時間がかかることがわかる。
③ 何もない で紹介した植栽地は、目を引くものがないので、他の使われていない植栽地よりも一層侘しく見える。しかし、このうち土が残されているものは、すぐにでも植物を植えることができるため再利用の可能性を感じるものが多い。その意味で、他の使われていない植栽地よりも明るい印象を抱くことがあった。
④ 園芸の痕跡 が残る植栽地は、ここでは3箇所しか紹介できなかった。それらは公共の場所(歩道や公園)にあったものも含め、どれも個人が設けたように見える。そして、それぞれの場所に残された柵、ブロック、支柱などを見ると、趣味として園芸を楽しんでいた様子が窺える。そこには自治体が管理する植栽地とは異なる魅力があり、個人宅の庭に近い雰囲気を感じた。
このように「使われていない植栽地」と一口に言っても、その姿や雰囲気は様々である。
それらの佇まいは、使われていた頃の姿、使われなくなった理由、使われなくなってから経過した時間、使われなくなってからの管理のされ方などの経緯や、再利用の可能性が感じられるかどうかなどの条件によって形づくられていると言えるだろう。
*1:参照:中標津町ホームページ「令和元年度社会貢献活動原材料支給制度を活用した取り組み事例」https://www.nakashibetsu.jp/file/contents/348/15486/jisseki.pdf(2020.10.3.閲覧)
*2:箕面市ホームページ「公園・歩道で清掃や花壇管理をしませんか?」https://www.city.minoh.lg.jp/midori/kouen/adoputo.html(2020.10.3.閲覧)。なお、同ホームページ「箕面市公園・歩道等の自主管理支援要綱」の別表(https://www.city.minoh.lg.jp/midori/kouen/documents/youkou0930.pdf)には、公園や緑地等における自主管理項目には「花壇管理」と記載されているが、歩道(市道路線)については「花壇管理」の記載がなく、個人がどこまで花壇を作り管理できるかは不明。
*3:(出典:京都市情報館ホームページhttps://www.city.kyoto.lg.jp/kensetu/page/0000258130.html)
*4:(京都市情報館ホームページ「Q33 街路樹のない植栽帯に,自分で樹木や花を植えたい。」https://www.city.kyoto.lg.jp/kensetu/page/0000110023.html(2020.10.3.閲覧))
また、釧路市でも依頼書を提出すれば、植樹枡などへの花壇利用が許可される場合があるようだ(釧路市公式ホームページ「植樹枡等への植栽について」
https://www.city.kushiro.lg.jp/kurashi/michikawa/douro/public/0101.html(2020.10.3.閲覧)
*5:出典:龍ケ崎市公式ホームページ「公共施設の里親になりませんか」https://www.city.ryugasaki.ibaraki.jp/jigyosha/toshiseibi/doro/2013081301872.files/2018071102.pdf(2020.10.12.閲覧)
*6:注1〜5を参照。おそらく、これらの制度は前述した維持管理コスト削減のために設けられたと考えられる。
*7:中には特徴が重複するものもあるが、目立っていたほうをもとにして分類している。