はじめに
街を歩いていると、様々な場所で花壇や植樹のためのスペースを見かける。
それらの中には何らかの事情で使われていないものがあり、人目に留まることなくひっそりと佇んでいる。
この記事では、散歩中に見つけた使われていない植栽地の姿を紹介しつつ、使われなくなった事情を推測したり、感じたことをまとめたりしたい。
なお、ここで紹介する植栽地の多くは極く小さなスペースだが、これらも「空き地」として扱う。
また、使われていない植栽地の中には、地面に固定されていない移動可能なプランターがあり、これを空き地(土地)とみなして良いのかという問題もある。しかし、ここではあえて(一般的でないことは承知の上で)それらも空き地とみなしたい。
「土地」は地面を指す言葉なので、本来は動かせない存在だ。しかし、土を入れたプランターで植物を育てる際、私たちはそこを仮の地面と見なしているのではないだろうか。このように、プランターを地面を模した存在と捉えるなら、使われていないプランターは空き地と見ることができる。
また、やや突飛な例を言えば、車の荷台に空き地(地面)をイメージしたものをつくり、それを「移動式の空き地」と呼ぶことも可能だと思う。
フィールドワークの途中で「何が空き地で何がそうでないか」という問題にぶつかることがあるが、ひとまず空き地の概念を取り入れたものは、土地そのものでなくても空き地と見なして注目していきたい。
様々な「空き植栽地」
この記事では、外観の特徴をもとにして使われていない植栽地を次の4つに分類したい。
① 雑草
おもに雑草に覆われてしまっている、あるいは覆われつつあるもの。
② 切り株
切り株が取り残されているもの。
③ 何もない
目につくものがほとんどない、あるいは僅かしかないもの。
④ 園芸の痕跡
支柱や柵などの園芸の痕跡が特に目を引いたもの。
① 雑草
●空き植樹枡1
歩道にある使われていない植樹スペース。植樹枡(しょくじゅます)と呼ばれる。
すっかり雑草に覆われてしまっている。
使われなくなってから2、3年は経っているのではないだろうか。
草に覆われて見えにくいが、この植樹枡には円形の金属部品がついている。根を支えたり、根元の太さをコントロールするためのものだろう。
道路緑化に関する言葉は、「街路樹」「植樹枡」「植樹帯」「環境施設帯」「植栽基盤」など様々なものがあるが、それらは国の「道路緑化技術基準」*1 に記されており、そこでは植栽地が設置される場所として、歩道、分離帯、交通島、道路のり面、環境施設帯、インターチェンジ、サービスエリア等を掲げている。
さらに、この基準には植栽地の管理方法が記されており、「5ー2ー9 枯損樹木の処置」という項目には「枯死した樹木は速やかに撤去し必要に応じて補植することが望ましい。」とだけ記されている。つまり、これを読む限りでは、使われなくなった植樹枡は必ずしも再利用されるわけではないようだ。市に植栽地を充実させる財政的な余裕はなさそうなので、この植樹枡はこのまま放置されるか、あるいは、いずれアスファルトなどで塗り潰されてしまうのではないだろうか。
(no.373 茨城県龍ケ崎市)
●空き植樹枡2
これは公園の水遊び場(写真上)の隣にあった円形の植栽地。
おそらく植樹枡として使われていたと考えられるが、雑草専用の花壇になっている。
敷地内の様子。
ここは住宅と工場に囲まれた簡素な公園で、中央にある水遊び場(時々水が張られている)以外の遊具はない。また、敷地の端には何本かハナミズキらしき木が立っている。この使われていない植樹枡にも、かつて同じものが植えられていたと考えられる。
(no.374 東京都小平市)
●空き植樹枡3
歩道上でよく見かける植栽地。
ボリュームのある雑草に占拠されている。これも2年以上は放置されているのではないだろうか。この道沿いには低木や落葉中木が立っているので、ここにも同じ木が植えられていたのだろう。
同じ道沿いにはミニサイズのものもあった。エノコログサ専用の花壇になっており、これはこれで魅力的である。
(no.375〜376 茨城県龍ケ崎市)
●空き植樹枡4
集合住宅の敷地にあった植樹枡。
まだ全体が雑草に覆われているわけではないが、このまま人の手が入らなければいずれそうなるだろう。
引いた所から見た様子。
敷地の奥にも植樹枡があり、そこには木が植えられている。
この植樹枡は、敷地に出入りする車や歩行者の妨げになるので利用されていないと考えられる。
(no.377 東京都小金井市)
●空きプランター1
道沿いに使われていないプランターがあった。
長い間放って置かれている様子で、木製の容器は壊れてしまっている。
雨が降らなければすぐに土が乾きそうな環境だが、この雑草は生命力旺盛だ。おそらく、オオアレチノギクかヒメムカシヨモギだと思う。セイタカアワダチソウも姿が似ているし、いまだにこの3種を見分ける自信がない。
道路沿いには3つのプランターが置かれていた。奥の2つに生えているものも雑草である。
これらが置かれている場所(細長いコンクリート部分)は、おそらく公道にあたると考えられるが*2、プランターを設置したのは個人かもしれない。
(no.378 茨城県龍ケ崎市)
●空きプランター2
商業ビルの前にあったプランター。
スペースのほとんどがウスアカカタバミに覆われている。カタバミの森の中でポツンと生えているのはアオキだろう。もともとここではアオキをメインに育てていたのではないだろうか。箱庭的な魅力を感じる空き植栽地である。
なお、これに近い形状のプランターを別の場所で見かけたことがある。
ここにはリアル人口芝が敷かれていた。このほうが清潔感があるが、個人的には先のカタバミ&アオキ花壇のほうに魅力を感じる。
(no.379 東京都新宿区)
●ガソリンスタンドの植栽地
ガソリンスタンドの端に雑草に覆われたスペースがあった。
このスペースが植栽地とは断定できないが、わざわざ舗装されずに土が残されているので、おそらくそう考えてよいだろう。整備された当初は芝生が敷かれていたかもしれないし、樹木や花が植えられていたかもしれない。
スペース内の植生は一年草のエノコログサが優勢だ。つまり、毎年草刈りがきちんと行われているか、あるいは使われなくなってそれほど時間が経っていないスペースと考えられる。
スペースの中には立水栓がある。ハンドルもついてないし、そばにゴムホースなども置かれていない。おそらく日常的には使われていないものだろう。
冬の様子。
(no.380 茨城県)
②切り株
●ベンチ兼植樹スペース
百貨店の前にあった植樹スペース。
円形の縁は、磨かれた御影石(あるいは大理石)になっていて高級感がある。ここはベンチとしても使われているのだろう。
通勤中にこの前を通ることが多いが、たしかここにはケヤキが立っていたと記憶している。落葉高木のケヤキは大量の落ち葉が出るため、管理コスト削減のために切られてしまったのかもしれない。
それにしても、切り株を囲む照明器具が何とも言えず寂しげである。夜には、ライトアップされた侘しい切り株の姿が見られるのだろうか。
(no.381 東京都武蔵野市)
●蓋をされた花壇
店先に、コンクリートのようなもので埋められてしまった花壇があった。
これまで紹介してきた「空き植栽地」の多くは土の地面が残されており、それらは将来再利用される可能性があった。しかし、これはその可能性はほぼなく、園芸を止めてしまったことがわかる。
奥のほうには木の根元が残されていた。深く根を張ってしまい取り除けなかったものと考えられる。
今後も、土に還ることなくミイラのように残り続けるのだろう。
(no.382 千葉県柏市)
●複数の切り株が残る花壇
集合住宅の入り口付近にあった植栽地。
ここには株立ち(根元から数本の幹が出ている形)の低木が6つほど植えられていたようだ。残された根のサイズはどれも小さいので、おそらく樹高もそれほど高くはなかったと考えられる。それなのに、なぜ切られてしまったのだろうか。
根元を切っても蘖(ひこばえ)が出て再生することがあるが、ここにはそれが見当たらない。
切り株の周りには様々な草が芽吹いてきている。このままではいつか雑草に覆われてしまいそうだ。
はたして、再び植栽される日は来るだろうか。
(no.383 茨城県つくば市)
●歩道上の切り株
歩道上の切り株が残る植栽地。
断面に十字の切れ込みがあるが、これは根を早く腐らせるための処置だと考えられる*3。黒く変色し、苔もついているので、切られてから数年は経過しているのだろう。
街路樹には、景観向上、生活環境保全、防災機能、緑陰形成機能などのプラス面があるものの*4、倒木の危険性、害虫の発生、根の成長による道路の損傷、落葉が引き起こす弊害などのマイナス面もある*5。また、維持管理費用が自治体の財政を圧迫することも考えられる。この道沿いの木が切られた具体的な理由はわからないが、前述したような問題が原因になっているのだろう。
(no.384 茨城県かすみがうら市)
この植樹枡は、先ほどとは別の道沿いにあったもの。
これは根上がりが起きたので切られたと考えられる。
(no.385 茨城県龍ケ崎市)
※ 後編 ↓
*1:参照:国土交通省ホームページ「道路緑化技術基準の改正について」(都街発第21号道環発第8号、都市局長・道路局長発、北海道開発局長・沖縄総合 事務局長・各地方建設局長・各都道府県知事・十大市長・日本道路公団総裁・首都高速道路公団理事長・ 阪神高速道路公団理事長・本州四国連絡橋公団総裁 宛通知(昭和63年6月22日)別紙の「道路緑化技術基準」
https://www.mlit.go.jp/road/sign/kijyun/pdf/19880622ryokuka.pdf(2020.10.4.閲覧)
*2:左の敷地は住宅だが、その塀の下に境界標らしきものが見えるし、写真奥には赤いポールの交通標識が立っている。
*3:参照:金子造園ホームページ「植木の伐採と草刈りのご依頼|埼玉県春日部市のS様所有空き家のお庭管理」https://www.kanekozoen.com/5082/(2020.10.10.閲覧)
*4:参照:環境省ホームページ「平成22年度 ヒートアイランド現象に対する適応策検討調査業務 報告書」の「資料2-3 街路樹ケース検討のための事前調査」https://www.env.go.jp/air/report/h23-01/04-ref2-3.pdf(2020.10.7.閲覧)
*5:参照:有賀一郎「豊かな緑陰街路への再生手法「問題点と解決策」」日本緑化工学会編『日本緑化工学会誌』第33巻第2号(「特集「緑豊かな街づくりのための都市緑化技術とその課題」(Ⅱ)」)、日本緑化工学会、2007年11月。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/33/2/33_2_339/_pdf(2020.10.7.閲覧)