住宅街の防火水そう①
散歩していると、時々コンクリートの台が設けられた一画に出会うことがある。
写真の標識にあるとおり、この四角い台は「防火水そう」といい、地中に埋められた容器の中に消火用の水が蓄えられている。
ここは非常時に活躍する空間なので、日常的に利用されることはないが、いつでも使えるように市町村によって維持・管理されている*1。
おそらく、普段は人々がここを意識する機会は少ないのではないだろうか。
しかし、街の片隅にひっそりと佇む姿に私はいつも魅力を感じている。
なお、「防火水そう」は消防水利(しょうぼうすいり)*2の一つであり、消防庁の告示を確認すると以下のように様々なものが例示されている*3。(以下、告示より抜粋。)
一 消火栓
二 私設消火栓
三 防火水そう
四 プール
五 河川、溝等
六 濠、池等
七 海、湖
八 井戸
九 下水道
ガランとした台上のスペース。
不思議と心が落ち着く空間だ。
子供の頃に見つけていたら友人と遊び場にしていただろう。
右手前には四角い鉄板の蓋が見えるが、これは「吸管投入孔」*4とみられる。ポンプ車などが水を汲み上げる際、ここに導管を入れて使う。
また、奥には物置きが設置されている。中には消防・救急用品か、あるいは水槽の管理に使う道具が入っていると考えられる。
(no.364 茨城県龍ケ崎市)
住宅街の防火水そう②
これはY字路にあった防火水そう。先に紹介した水槽と比べて少し小さい。
ここには円形の吸管投入孔(マンホール)が2つ付いている。
手前の柵は中央だけチェーンが張られていない。立ち入り禁止だと思うが、ふらっと入ってみたくなる場所である。
(no.365 千葉県柏市)
住宅街の防火水そう③
この防火水そうは、やや広い土地に設けられている。
草に囲まれた水槽。夏場はすぐに埋れてしまいそうだ。
ここにも二つの吸管投入孔が付いている。
そばに立つ標識。
空き地の奥には、トラックの荷台に使われるようなコンテナが置かれていた。中に防災用品が入っていそうだが、この場所は私有地の可能性があり、防火水そうと無関係かもしれない。
(no.366 茨城県龍ケ崎市)
公園に併設された防火水そう①
この防火水そうは、公園とセットでつくられたものかもしれない。
公園の造りも、空き地のように簡素で魅力的だ。
小さめの水槽に見えるが、標識には容量40㎥と書かれている。
「消防水利の基準」には、「消防水利は、常時貯水量が四十立方メートル以上又は取水可能水量が毎分一立方メートル以上で、かつ、連続四十分以上の給水能力を有するものでなければならない。」*5と記されている。
(no.367 茨城県龍ケ崎市)
公園に併設された防火水そう②
これも公園とともに設置されたと考えられる。これまで紹介したものは容器の一部(コンクリート)が地表に出ていたが、これは完全に地中に埋まっている。
標識がなければ、この一画が何のために空けられているかわからないだろう。
地表の様子。地中浅くに埋め、うすく土をかぶせられる製品があるようだ*6。
反対側から撮影。
上から見た様子。マンホールは二つ付いている。
(no.368 茨城県龍ケ崎市)
草に埋れた防火水そう
この防火水そうは、完全に埋れてしまっている。
標識がなければただの草地にしか見えない。
中の様子を探ってみたが、マンホールやコンクリートの姿は確認できない。
おそらく、先に紹介した水槽と同じように頭まで地中に埋めるタイプだろう。
標識は古く、退色が進んでいる。
ひょっとしたらここは放棄された廃防火水そうかもしれないと思ったが、最近この前を通ったら草刈りが行われていた。
今度、地面の様子を確認してみようと思う。
(no.369 茨城県龍ケ崎市)
防火水そう兼ゴミ集積所
農家が多い地域にあった古そうな防火水そう。
冒頭に紹介した防火水そうにも、これと同じ四角い鉄板が付いていた。おそらく古いタイプの吸管投入孔だろう。
この防火水そうはゴミ集積所としても利用されているようだ。
他の用途が確認できたのはこれが初めてである。
標識は、遠目からは読み取れないほどに退色している。
手前にはのぼり旗用と思われるポールがあるが、誰かが勝手に設置したのだろうか。
(no.370 茨城県龍ケ崎市)
消防活動用空地
ビルの横に細長い緑地(植栽地)が設けられていた。
近寄ってみると赤い標識が立っている。
実はここは消防活動のためのスペースで「消防活動用空地」と呼ばれる。
消防活動用空地は、地方自治体の条例等によってつくられるようだ*7。
たとえば、福岡県柳川市の消防本部訓令には、消防活動用空地の目的について「中高層建築物及び大規模建築物については、火災等の災害発生時、消防隊等の円滑な災害活動を図るため、進入路及びはしご車等架梯のための消防活動用空地を確保するものとする。」とあり*8、空地の構造の基準が記されている*9。
このように、ここは梯子車のために設けられたスペースと考えられるが、それ以外にも消防設備がありそうなので観察してみる。
まずは一本の木が植えられたスペース。
木の根元には、どこにでも見られるような水道メーターと止水弁があった。
ここには散水栓がある。
しかし、おそらくボックスの中は普通の水道の蛇口ではないだろうか。
そばにはこの散水栓に繋がっていそうな青いバルブボックスもある。
次に、隣の細長い植栽地を見ると連結送水管の送水口があった。
これは消防隊のポンプ車が使用する設備で、ここから消火用水を建物の各階に送ることができる。
反対側の端から見た全体像。
(no.371 千葉県柏市)
送水口のための空きスペース
集合住宅前にあった空き花壇のようなスペース。
先の場所と同じく送水口が設置されている。しかし、周囲には標識が見当たらないので、ここは「消防活動用空地」ではないかもしれない。
植物で隠れてしまわないように、送水口の周りは植栽せず、意図的に空きスペースをつくっていると考えられる。その意味で、ここは消防活動に資する土地と言えるだろう。
(no.372 東京都小金井市)
*1:「消防水利の基準」(昭和39年消防庁告示第7号)の第七条に「消防水利は、常時使用しうるように管理されていなければならない。」と記されている(出典:消防庁ホームページ「消防水利の基準」(昭和三十九年十二月十日 消防庁告示第七号)、https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post27/(2020年7月27日閲覧))また、設置や管理については「消防法」第二十条第二項を参照。出典:e-Govウェブサイト、
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC1000000186#559(2020年7月27日閲覧)
*2:消防活動に使われる水利施設などのこと。
*3:前掲、「消防水利の基準」(昭和三十九年十二月十日 消防庁告示第七号)、消防庁ホームページhttps://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post27/(2020年7月27日閲覧))
*4:参照:「消防法施行令」(昭和三十六年政令第三十七号)第二十七条第3項第五号。(出典:e-Govウェブサイト、https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=336CO0000000037#414(2020.7.27.閲覧))
*5:前掲、「消防水利の基準」第三条一項(昭和三十九年十二月十日 消防庁告示第七号)、消防庁ホームページhttps://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post27/(2020年7月31日閲覧))
*6:参照:株式会社キョウリツホームページ「HC式防火水槽・耐震性貯水槽」http://www.k-kyouritu.co.jp/p_mat02_fireproofing.html(2020.7.31.閲覧)
*7:参照:ArchiLinkホームページ「知っておかなければならない消防活動空地の設置ポイント」(記事監修:山田 博保)https://archilink.jp/firefighting-activity-space(2020.8.3.閲覧)
*8:出典:柳川市公式サイト、「都市計画法に基づく開発計画の消防水利施設並びに中高層建築物、大規模建築物の進入路及び消防活動用空地確保の指導に関する規程」(平成26年柳川市消防本部訓令第14号)の第5条http://www.city.yanagawa.fukuoka.jp/reiki_int/reiki_honbun/r203RG00001123.html(2020.8.3.閲覧)
*9:同上、第7条。