前回の記事と同様、この記事でも住宅街にある空き地を中心に取り上げ、それぞれの過去の姿を探りつつ、特徴や気付いたことをまとめたい。
ここで紹介する空き地は、住宅、店舗、林などの跡地である。「跡地」なので、当然過去に存在したもの(建物、施設、自然物など)の原型は残されていないが、その痕跡が残っている場合がある。それらは目立つ物として残っていることもあるし、地面などに微かな表情として現れていることもある。また、この種の空き地は、土地の過去についての想像力を掻き立てる点で、他の空き地にはない魅力を感じる。空き地の前に佇み、残された痕跡とともに空虚な空間を眺めていると、土地そのものが持つ記憶を垣間見ているような気持ちにもなる。
林の跡地
切り株が目を引く空き地。
この辺りは畑が多く、広い農地の所々に家(農家)が点在している。1990年頃に撮影された空中写真を確認したところ、当時この土地は林だったことがわかった。その後、どのタイミングで木々が伐採されたかわからないが、2013年の空中写真ではすでに更地となっていた*1。
林の痕跡として目につくものは、敷地の西と南の端に立ち並ぶ切り株である。
南側の端に並ぶ切り株。これに伐採した木を使って柵が作られている。
西側の端にも切り株が立ち並ぶ。
敷地内には、この土地に生えていたと思われる木々の残骸が固まって置かれている。
木の束は長い間放置されているとみられ、白く朽ちている。
敷地の端には常緑樹と思われる低木が生えていた。種類はわからないが、似たようなものが生垣として植えられているのをよく見かける。この低木の姿が2013年の空中写真にも写っていたので*2、管理者が何らかの意図で残したものだろう。
そのほかに敷地内で目に付くものはほとんどない。先述したように、切り株は敷地の西と南の端だけに残されており、それ以外の場所に生えていた木々は抜根まで済んでいるようだ。これは将来の土地利用を見越しての処置だと思うが、現在(訪問時の2020年)にいたるまで使われる気配はない。
(no.462 茨城県)
塀に囲われた空き地①
旅行中に見つけた空き地。ゆっくり観察する時間が持てなかったが、ストリートビューで過去の様子を確認すると、ここは少なくとも2019年頃までは月極駐車場として使われていたようだ。それ以前に何があったかは不明だが、1974-1978年の空中写真には敷地の奥側に建物らしきものが写っていたので*3、おそらく住宅や事業所があったと考えられる。
敷地の隅には量水器らしきものが残されている。
塀の端にある白で塗られた四角いものは、月極駐車場の標識跡である。
周囲は古いブロック塀で囲われているが、おそらくこれは、かつて存在していた建物と一緒に造られたものではないだろうか。
なお、左奥の一部だけブロック塀がなく生垣になっている。かつてそこは隣地へ抜けるための裏口(勝手口)だった可能性がある。
この空き地を訪れたのは2021年だが、地表に草がほとんど生えていないので、使われなくなってからせいぜい1年程度しか経過してないように見える。もちろん、除草剤が使われているケースもあるだろう。
(no.463 千葉県)
塀に囲われた空き地②
撮影時の前年まで住宅があったが、解体されて空き地になっていた。
敷地内は砂利で整地されすっきりしているが、端のほうには早くも雑草が生えてきている。
過去の空中写真には敷地の奥に建物が立っている姿が写っており、手前側は庭だったと考えられる。奥側の地面には砂利が敷かれていないが、なにか建物の解体工事に関係しているかもしれない。
道路側には簡易柵が設けられている。
撮影した翌年、この空き地はコインパーキングになったようだ。
(no.464 東京都)
単管パイプに囲われた空き地
この辺りは農業が盛んな地域で、土地の多くが水田耕作に利用されている。Y字路にあるこの空き地には、かつて農業用倉庫と思しき建物が立っていたが、最近になって解体されたようだ。
周囲に立つ家々のデザインを見る限り、多くは昭和時代に建てられたものと考えられる。
敷地内は工事跡とみられる凸凹が残されており、雑草はほとんど生えていない。空き地になってからまだ1年も経過していないのだろう。
写真左奥の角付近には出入り口が設けられており、そこにぬかるみ対策と思われる板が敷かれている(下の写真)。確かな根拠はないが、この板はここに立っていた建物の解体工事に使われたものではなく、将来の開発工事のために用意されたものに思える。
1か所だけ設けられた車両用と思われる出入り口。板の状態はきれいで、使い古したものには見えない。
出入口近くの隅には汚水桝があった。
(no.465 茨城県)
簡易柵で囲われた空き地
何度か通ったことのある道を久しぶりに歩いてみたら、出来立てと見られる空き地があった。
かつてここには2つの店(衣料品店と印刷・はんこの店)があったが、撮影時から遡って1年以内に解体されてしまったようだ。このように、空き地の記録を行なうことで過去にあったものを再認識できるが、街は常に変化しているので、うっかりしていると過去の姿を思い出せないことが多い。
敷地の表面には、解体工事で出たと思しきコンクリートやタイルの破片が散らばっている。
また、店があった頃は意識していなかったが、あらためて見るとかなり狭い土地だったと気づかされる。
(no.466 埼玉県)
工事用ネットで囲われた空き地
この土地には、数年前まで住居兼事業所らしき建物が立っていた。
撮影時は解体直後とみられ、地面に工事の跡が残っている。
工事車両のキャタピラ跡らしき窪みが残る。ここは、工事が行われてからせいぜい数日くらいしか経っていないように見える。
水道メーターボックスとガス菅の表示杭。汚水桝が見当たらなかったが、見落としていただけかもしれない。
この空き地は最近開発され、今は事業所らしき建物が立っている。
(no.467 東京都)
古い集合住宅の跡地
かつて、この空き地には古いアパートが立っていたが、ストリートビューで確認すると2018-2019年の間に解体されてしまったようだ。
敷地内には解体作業で出たと思しきコンクリートやタイルの破片が散らばっている。
集合住宅が立っていた時のストリートビュー画像には、敷地の端にリュウノヒゲが並んで生えている姿が写っていた。しかし、空き地になってから様々な場所へ勢力を拡大している。
敷地内をよく観察すると不自然に瓦礫が集まっている箇所があった。ここには配管など、何かが埋まっているのだろうか。
空き地の隅には、水道メーター、蛇口付きの水道管、仕切弁、ガスの表示杭が残されている。
(no.468 東京都)
本記事で紹介した空き地には、過去を偲ばせるものが比較的多く残っているものと、それがほとんど残っていないものがある。
過去を偲ばせるものが比較的多い空き地は、「林の跡地」「塀に囲われた空き地①」「古い集合住宅の跡地」である。それぞれの空き地で目を引いた過去の痕跡は次のとおり。
●「林の跡地」… 敷地の端に立ち並ぶ切り株、伐採されたと思しき木の束、常緑とみられる低木。
●「塀に囲われた空き地①」…駐車場の標識跡、量水器ボックス、古いブロック塀、裏口跡と推測できる場所。
●「古い集合住宅の跡地」…解体作業で出たと思われる破片、水道管やメーターボックスなどの人工物、植栽されたものと思われるリュウノヒゲ。
次に、過去を偲ばせるものがほとんどない空き地は、「塀に囲われた空き地②」「単管パイプに囲われた空き地」「簡易柵で囲われた空き地」「工事用ネットで囲われた空き地」である。これらのなかには水道メーターボックスや汚水桝などが残っている場所もあるが、目を引く過去の痕跡の数は少ない。
このように、敷地内に残る過去の痕跡の姿・量は空き地によって異なる。この差は、おもに空き地の整備方法(過去にあったものを解体・撤去する際の工事内容)の違いによるものと思われるが、そこには当然、土地の所有者や管理者の事情が関わっていると考えられる。例えば、空き地を整備するコストをできるだけ抑えたい場合は、その土地の将来の用途や管理方法などをある程度定め、再利用できそうなものは解体・撤去せずに残しておくだろう。また、積極的に売り出したい空き地の場合は、きれいな更地にするほうが販売する上で有利かもしれない。このように、空き地の景観が形づくられる過程で様々な事情が絡んでいることが窺えるが、私はまだ空き地整備に直接関わった経験がないし、業者の話を詳しく聞いたこともない。その内実については別の機会にじっくり調べてまとめてみたいと思う。
*1:国土地理院ウェブサイト「地理院地図」https://maps.gsi.go.jpにある当該地域の写真「1987年〜1990年」(年代別写真)、「2013年」(年度別写真)を参照。
*2:前傾、「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp)参照。
*3:前傾、「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp)参照。