空き地図鑑

空き地、更地、使われていない資材置き場、オープンスペース、祭祀場、住居跡地など、「空いている場所」がもつ様々な機能、意味、魅力を探ります。 (※本ブログに掲載の写真および文章の無断使用(転用・転載など)は禁止しています。)

無名の遺跡4 ー LIVIN(リヴィン)水戸店跡地

このブログでは、住居や施設の跡地のうち、過去の痕跡が残されているものを「無名の遺跡」と呼んで紹介してきた。

(参照:街で無名の遺跡を探す〈前編〉 - 空き地図鑑

その中には、建物の基礎部分や外構がそのまま残されているケースもあり、それらを観察することで、かつて存在した建物の姿やそこに出入りしていた人たちについて想像でき、このことが他の空き地にはない魅力と言える。

上の写真は、JR水戸駅の北口を出てすぐの場所にある無名の遺跡で、LIVIN(リヴィン)水戸店の跡地である。西友が運営していたリヴィン水戸店は2009年に閉店し、2012年に店舗が解体された*1。その後、敷地の一部に新しくコインパーキングがつくられたが*2、それ以外の大部分はこの10年ほど(少なくとも訪れた2022年5月現在まで)空き地のままになっている。しかし、再開発事業により将来はマンションと商業施設がつくられる予定で、2024年にその工事が始まるようだ*3

なお、再開発計画を進める不動産会社が、除草と癒し目的でこの空き地にヤギを放し飼いにしていた時期がある*4

空き地の除草目的でUR都市機構がヤギを放牧したり*5、不動産会社や農園がヤギのレンタルサービスを行う例もあるが*6、大都市のビル街の空き地にヤギが放たれた例は、かつてどれくらいあっただろうか。その時の様子を見てみたかったが、さぞシュールな風景だっただろう。しかし、広くて斜面があるこの空き地なら、ヤギたちも案外喜んでいたかもしれない。

敷地の南西の角から見た様子。この場所に出入口が設けられている。

出入り口の様子。敷地の周りは単管パイプと工事用フェンスで囲われている。

フェンスに掲げられた看板には、この空き地を中心とする再開発について掲示されている。

先ほどと反対側の、南東の角から撮影した様子。

あらためて、空き地の南側正面から見た様子(デッキ上から撮影)。

空き地は、奥の斜面上部にあるカラフルな壁面まで続いており、この斜面は階段状に整備されている。

段数は合計3段で、中央の大きな水溜り付近までを0段目とすると、その上の段(1段目)にはペイントされた橋脚状のコンクリート構造物が立っている。そして、この位置からはほとんど見ないが、その構造物の前にも大きな水溜りがある。

さらに上の段(2段目)には、コンクリートの壁に囲われた小さな空き地があり、また、最上段(3段目)の壁面上部には細長い空きスペースがある。しかし、これら2〜3段目の空き地もこの位置からは見えない。

0段目の空き地で目を引いた大きな水溜り。奥に立つビルと青空が淡く映し出されている。

先述したように、この上の段(1段目)にも別の水溜りがあり、この地区一帯の水はけのわるさが窺えるが、そのおかげでこのような魅力的な景観が生まれている。

南西の出入り口から轍のようなものが伸びていた(左の写真)。おそらく、脇に置かれたぬかるみ対策マット(右の写真)を敷いた跡だろう。

斜面のエリアで最も目を引くものが、このカラフルにペイントされた構造物である。

手前にある橋脚のようなものは空き地の1段目に立っている。また、奥側に立つ壁面の中央凹みに部分に2段目の小さな空きスペースがある。しかし、やはりその姿はここからは確認できない。

これらの構造物は、建物もしくはデッキ施設の基礎部分だと思われるが、かつてはペイントが施されずコンクリートむき出しの状態だった。

しかし、「荒廃した水戸の中心に新しい命を吹き込むこと」*7をコンセプトにしたアート活動(M-ART)の一環で「水戸駅前壁画プロジェクト」が2019年に立ち上げられ、同年、アーティストのHITOTZUKIによってこの壁画が制作された*8

このプロジェクトは空洞化が進む水戸の中心部に活力を生み出すことが目的なので、当然空き地や空きビルなどを解消すべきネガティブな対象と捉えている*9全国的な空き地・空き家の増加が問題となっており、その対策としてそれらを有効利用するために様々な試みがなされている。ただ、個人的にはそのような余ってしまっている空き地のいくらかが、ある種の自由さと危うさを備えた利用可能な広場に生まれ変われば面白いのではないかと考えている。その一つの理想形として、かつての日本で多く見られたような、子供や大人が出入りし、比較的自由に利用できる空き地の姿がある。そこには、きれいに整備された公園、多目的広場、公開空地などにはない価値があるのではないだろうか。もちろん、これは設計の問題ではなく、土地利用に関する人々の価値観や生き方に関わる問題なので、今のところ理想に過ぎないのかもしれないが。

さて、ふたたび空き地の観察に戻る。

北東の隅に残るコンクリートの隙間から樹木が成育していた。なんとなくだが、根付いてから3年以上は経っていそうである。

東隣のビルとの境界。敷地端の地表部にもコンクリートが残る。

 

ここまでは空き地を南側から観察した様子で、標高が低い場所(0段目)を中心に紹介した。

一方、斜面エリア(1〜3段目の空き地)も詳しく観察していきたいが、その辺りはビルに囲われており近くから眺めることができない。唯一、北西の角付近から少しだけ中の様子が確認できたので次に紹介していきたい。

先の場所から左に迂回して坂道を登っていく。この辺りはビルや駐車場に遮られて空き地の内部が見えないが、上の写真のように一部だけ空き地に接している部分があった。

敷地内の様子。左隣にあるのがコインパーキングで、敷地内で最も早く再開発された場所と見られる。なお、この通路状の空き地の奥は、橋脚状の構造物がある1段目の空き地につながっている。

コインパーキングとの境界には、解体工事の生々しい痕跡とともに、店舗時代のものと見られるタイルが残されている。

さらに、コインパーキング内からもフェンス越しに削られた土台跡が確認できる。

急な坂道を上り切ると、フェンスの中に空き地の最上部(北端)にあたる部分が見えてきた。

この場所も工事車両の出入り口になっている様子で、ぬかるみ対策マットが敷かれている。

そして、このマットが敷かれた所から左奥に続く通路状の部分が3段目の空き地にあたる。

3段目の空き地は、左端の敷地境界に沿って奥へ続いている。奥に向かう途中で窪地に突き当たるが、そこが2段目の小さな空き地である。しかし、この位置からもその姿は確認できない。

なお、写真中央付近にある四角い格子状の部分は、先に紹介した1段目の橋脚状の構造物であり、この四角い穴の下は斜面になっている。

ふたたび出入り口付近の様子。そばには台車、プラケース、バケツ、ゴムホースなどが置かれている。

また、この位置からは1段目にある大きな水溜まりが見える。

1段目にある四角い水溜り。水溜りと言うより、池のように常に水が張っている状態に見える。仮に10年前からこの状態なら、すでに様々な種類の水生植物が生育し、小動物も棲みついていることだろう。

それにしても、なぜここに水が溜まるような広い窪みがあるのだろう。かつて半地下施設でもあったのだろうか。

水溜りから先ほどのコインパーキングまでは緩やかな斜面でつながっており、パーキングとの境界付近にクレーンらしきものが設置されていた。何となくだが、これは最近も使われている装置に思える。

 

今回紹介した無名の遺跡は、これまで訪れた中では比較的面積が広く、特徴的なものが数多く残る場所だった。

敷地内で最初に目を引く物は、カラフルにペイントされたコンクリート構造物かもしれない。ただ、もちろんそれだけがこの空き地の魅力を引き立てているわけではない。

この空き地の魅力は、様々な人工的要素と自然的要素が組み合わさることで、全体として変化に富んだ景観が形作られている点にある。具体的には、階段状の敷地の構造、コンクリート構造物、1段目の四角い窪み、地質、降雨、植生などである。とりわけ、1段目の池は、人工的な窪みに自然的要因(地質と降雨)が合わさって生まれた珍しいものである。

 

この空き地は、生まれてからすでに10年ほど経過しており、2024年に無くなる運命だ。

1度しか訪れたことがない空き地だが、無くなる前にその成り立ちを幾らか知ることができ、さらに敷地内の時間の流れを感じ取ることができてよかった。

(no.469 茨城県)

*1:参照:茨城新聞ホームページ「旧リヴィン解体始まる 水戸駅前」(2012年8月11日記事)https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=134465419190262022.5.30.閲覧。

*2:参照:Wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/リヴィン2022.5.17.閲覧。

*3:参照:茨城新聞ホームページ「水戸駅前再開発 マンションと商業施設に 24年度着工 コロナ禍、ホテル断念」(2022年1月8日記事)https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=164155286872782022.5.30.閲覧。

*4:参照:朝日新聞デジタル「駅前で飼われていた子ヤギ「誘拐」か フック外れ行方不明に」(2021年11月16日記事)https://www.asahi.com/articles/ASPCH6V3DPCHUJHB00P.html

*5:出典:UR都市機構ホームページ「環境に配慮した新たな用地管理手法(ヤギ除草)」https://www.ur-net.go.jp/aboutus/action/kankyo/shoukai/yagi.html(2022.6.3.閲覧)

*6:参照:安藤不動産HP「アニマル空き地管理」https://ando-fudousan.com/?page_id=193、佐賀新聞電子版「【動画】除草に「ヤギ」レンタル半年 高架下、傾斜地でモグモグ」(2021年9月10日記事)https://www.saga-s.co.jp/articles/-/737890(ともに2022.6.3.閲覧)

*7:出典:「M-ART 水戸駅前壁画プロジェクト」https://www.m-art-mural.com/about(2022.6.3.閲覧)

*8:同上、「M-ART 水戸駅前壁画プロジェクト」:https://www.m-art-mural.com/project。なお、このプロジェクトは「水戸ど真ん中再生プロジェクト」(https://mitoproject.jp)と呼ばれる官民連携の地方創生プロジェクトの第7弾に位置づけられている。(ともに2022.5.31.閲覧)

*9:参照:日本経済新聞(日経電子版)「地方創生へ一歩 故郷「水戸」ど真ん中に活気再び グロービズ経営大学院学長 堀義人(13)」(2016年3月30日コラム(ビジネス)記事)https://www.nikkei.com/article/DGXKZO98816290U6A320C1X12000/