空き地図鑑

空き地、更地、使われていない資材置き場、オープンスペース、祭祀場、住居跡地など、「空いている場所」がもつ様々な機能、意味、魅力を探ります。 (※本ブログに掲載の写真および文章の無断使用(転用・転載など)は禁止しています。)

街のありふれた空き地を観察する(1)

住宅街を歩いていると、家々の間に空き地が取り残されている姿をよく見かける。しかし、あらためてよく観察すると、それらは一様ではなく姿や雰囲気は様々である。

例えば「住宅街の空き地」と一口に言っても、自然を切り開いて整備されたばかりのもの、長い間開発されることなく放置されてきたもの、住居の建設・解体が繰り返されてきたものなどがあり、これらの成り立ちの違いがそれぞれの姿・雰囲気を生み出している

この記事では、私の住む街にあるありふれた空き地を中心に紹介しつつ、それぞれの個別性(特徴や歴史)について探ってみる。なお、ここでいう「ありふれた空き地」とは、あくまで本記事で紹介する地域で見つけた「一見したところ何の変哲もない空き地」という意味で使いたい

 

のどかな空き地

f:id:akichiniiko:20211103214730j:plain春に訪れた空き地。

様々な種類の雑草が生えていて、のどかな雰囲気が魅力である。

この土地の過去の様子を空中写真*1で確認したところ、2013年には建物が立っていたが、その後どのタイミングで解体され、空き地になったかは不明である。ただ、敷地内は荒れている様子が見られないので、比較的最近解体された可能性がある。あるいは、草刈り等の管理が行き届いているのだろう。なお、敷地の奥の一画に園芸種と見られる低木が植えられており、そこは現在も庭か畑として使われているようだ。

f:id:akichiniiko:20211103220604j:plainそのほかに敷地内で目を引いたものは写真の右手前に咲く紫色のアヤメと思しき花である。どこからか種が運ばれきたケース、解体前の家で育てていたケースなどが考えられる。

f:id:akichiniiko:20211103214755j:plain(no.449 茨城県)

 

 

ビニールハウスが残る空き地

f:id:akichiniiko:20201230223508j:plain敷地の端にビニールハウスが立つ空き地。

敷地内は雑草に覆われているが、畑の区画跡らしき凹みが微かに見えるので耕作放棄地かもしれない。しかし、たんに物置場や作業場として使われていた可能性もある。

f:id:akichiniiko:20201230223527j:plain敷地の周囲からやや内側に残る四角い凹み(溝跡のようなもの)。

過去の航空写真を確認した限りでは、この空き地は撮影時点で何年も放置されているようだ。

f:id:akichiniiko:20211115193815j:plain敷地の端には資材が入っているビニールハウス(左)とビニールハウスの骨組み(右)がある。

f:id:akichiniiko:20211115193814j:plain特徴的な形のビニールハウス。おそらくメッキパイプ等で自作したものだろう。今も物置きとして使われているかもしれないが、屋根には穴が空いており雨風は防げそうにない。すでに放棄されたものにも思える。

f:id:akichiniiko:20201230223539j:plain敷地の端にはビニールハウスの骨組みも残されていた。かつてここも物置きとして使われていたのだろうか、それとも作物を栽培していたのだろうか。

(no.450 岩手県)

 

ニュータウンの角地

f:id:akichiniiko:20211103190041j:plain住宅街では角地が開発されず余っている姿をよく見かける。

この空き地は閑静な住宅街(ニュータウン)にあり、過去数十年間の衛星画像を確認した限り、一度も開発されたことがない区画と見られる。敷地はやや細長い形をしているが、面積は周囲の宅地とさほど変わらない。

f:id:akichiniiko:20211103182206j:plain昔はこの辺り一帯に畑や森が広がっていたが、1990年頃に開発が始まり、この地区の人口は近年も増加傾向にある*2。したがって、同地区の空き地はまだ数多く残されているが、それらもいずれなくなってしまうことが予想される。

f:id:akichiniiko:20211103182119j:plain敷地内は同種と思われるイネ科の雑草で覆われており、目につくものはあまりない。

f:id:akichiniiko:20211103182132j:plain唯一目を引いたものは端に立つ数本の木である。おそらく、種子が風や鳥に運ばれて根付いたものだろう。

(no.451 茨城県)

 

旧市街の住居跡らしき土地①

f:id:akichiniiko:20211103180823j:plainこれは旧市街で見つけた空き地。左隣にも別の空き地があるが、それは後ほど紹介したい。

f:id:akichiniiko:20211103180931j:plain2008年頃の衛星画像にはここに建物が写っていたが、それ以降の画像は見当たらず、この土地がいつ空き地になったかはわからない。

敷地内は定期的に草刈りが行われているようだが、セイタカアワダチソウやススキなどの多年草が多く見られるので、ここが空き地になってから2年以上は経過していると推測できる。

f:id:akichiniiko:20211103190100j:plain敷地の端には汚水桝らしきマンホールがあった。これが唯一見つけられた住宅の名残りである。

次に、この土地の隣にある空き地を紹介したい。

(no.452 茨城県)

 

旧市街の住居跡らしき土地②

f:id:akichiniiko:20211103181127j:plain先に紹介した空き地の隣にある空き地。この土地も、1990年頃に撮影された衛星画像を確認すると家が立っていたことがわかった。

f:id:akichiniiko:20211103181313j:plain敷地の端にはテレビとコンクリートブロックが残されている。

コンクリートブロックは建物の解体時に出た廃棄物だと思うが、テレビはここが空き地になってから投棄されたものではないだろうか。

f:id:akichiniiko:20211103181207j:plain別の敷地の端から見た様子。ここにもいくつか過去の痕跡が見られた。

f:id:akichiniiko:20211103181223j:plain敷地の端に残るいくつかの排水桝(ます)とガス菅の表示杭。桝の種類に詳しくないのでよく分からないが、おそらく雨水や汚水用のものだろう。

f:id:akichiniiko:20211103181250j:plainまた、敷地の内側にはひこばえが生えた切り株が2つあった。種類はナンキンハゼだと思うが、これらは庭木だったものとも考えられるし、自然に根付いたものとも考えられる。

f:id:akichiniiko:20211103181018j:plain隣の敷地(先に紹介した空き地)との境界にも同種の木が生えていた。この地域では街路樹に植えられている姿を目にするが、成長が早く、高さ15メートルくらいにもなるそうだ。

(no.453 茨城県)

 

物置き場兼ゴミ置き場の空き地

f:id:akichiniiko:20201226202539j:plain旧市街で見つけた少し不思議な空き地。

構造が特徴的で、三方が道路に囲われた不整形地である。国土地理院の空中写真で過去の様子を確認したところ、少なくとも1989年まではこの土地に建物が立っていたことがわかったが、2008年には空き地になっていた。

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敷地内でまず目を引いたのは、この白いコンテナだ。コンテナが防災倉庫として利用されているのを目にすることがあるが、ここにはそれを示す標識は見当たらない。

f:id:akichiniiko:20201226202611j:plain再び敷地内に目を向けると、他にも人工物が置いてあることに気づいた。

f:id:akichiniiko:20201226202724j:plain草むらにポツンと金属製の円柱が佇んでいる。おそらく、これは井戸用ポンプだと思うが、もともとこの土地で使われていたものなのか、それとも他の場所で使っていたものを置いただけなのかは不明である。いずれにしても、これらの様子を見る限り、この空き地は所有者が物置きとして利用していると推測できる。

f:id:akichiniiko:20201226202629j:plainしかし、先ほどと反対側に回ってみると気になるものを見つけた。

f:id:akichiniiko:20201226202711j:plainゴミ集積用のネットである。

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そばには市の標識も立っていた。

ということは、この空き地は市が所有する(あるいは個人から借りて管理している)土地とも考えられる。「個人の物置き場」と「公共のゴミ集積所」という二つの用途がみられる少し変わった性格の空き地である。

(no.454 茨城県)

 

この記事では、私の街を中心に一見平凡な空き地の個別性について探ってみた。

ここで紹介したように、何の変哲もない住宅街の空き地でも、それぞれが固有の歴史を辿ってきたこと空き地になってからも様々な形で管理されている様子が窺えた。このようにして、住宅街の空き地の姿・雰囲気に多様性が生み出されていることがわかる。

また、この記事では詳しく述べなかったが、そもそも空き地とは周りに存在する何か(建物など)との対比関係で認識されるものである。したがって、空き地の印象(雰囲気)は敷地内の様子だけで決まるものではなく、周囲にあるものに強く影響されると言える。このことを踏まえ、今後も周囲の環境を空き地の一部とみなしつつ観察を続けていきたい。

なお、この記事では私の街にある空き地を中心に6か所取り上げただけである。いずれ、ニュータウン、旧市街、山間部、丘陵地、海岸部などの特定の地域や地形における空き地の姿を観察し、それらの特徴についても探っていきたい

 

 

 

*1:参照:国土交通省国土地理院の「地図・空中写真閲覧サービス」https://mapps.gsi.go.jp

*2:当該自治体の「地区別将来人口推計」による。