空き地図鑑

空き地、更地、使われていない資材置き場、オープンスペース、祭祀場、住居跡地など、「空いている場所」がもつ様々な機能、意味、魅力を探ります。 (※本ブログに掲載の写真および文章の無断使用(転用・転載など)は禁止しています。)

使われていない農地 / 牧草地 / 緑肥栽培地

 

 

はじめに

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日本にはたくさんの使われていない農地があります。

例えば、土壌改善のために耕作が一時的に休止されている土地、自然災害によって作付けできなくなった土地、何らかの事情で放棄され原野化している土地等々…。

私はこれらの場所も「空き地」として扱っていますが、訪れた数はまだ多くありません。

しかし、他の空き地と同様、使われていない農地にも種類があり、土地ごとに固有の歴史・性格があります。そして、このことがそれぞれの土地の景観や雰囲気に多様性を生み出していると考えられます。

この記事では使われていない(ように見える)農地を中心に16か所の空き地紹介していきます。

また、ここで紹介する空き地は地域が限定されており、私の住んでいる街や旅先で見つけたものです。しかし、限定的とは言え、身近にある空き地の姿を記録することと、日本の農地の現状を示すことには一定の意義があると考えています。

なお、訪れた場所の中には、一見したところ使われていない農地であっても、実は緑肥を栽培している畑や牧草地というケースもあるでしょう。私は農業未経験者なので、これらの見分けがほとんどつきません。しかし、ここでは緑肥や牧草などの栽培地も「草原」「原っぱ」としての景観を重視して「空き地」として扱いたいと思います。

また、この記事では初めに日本の農業人口や農地面積に関する概要と、使われていない農地に関する用語について説明します。

 

 

日本の農業従事者数と農地面積について

●農業従事者数の推移

日本では農業従事者が年々減少しており、2001年には約236万人いましたが、2021年は約130万人になり、この20年でおよそ106万人減ったことがわかっています*1

また、2021年の調査では、農業従事者のおよそ7割が65歳以上と推定され*2、高齢化等によるリタイア、中山間地域を中心とする農村人口の減少等が問題になっています*3

 

●農地面積の推移

日本の農地面積については国の報告書に詳しく書かれており、その内容をまとめると次の通りです*4

 

日本の農地(耕地)面積が最大だったのは1961(昭和36)年で609万haありましたが、2020(令和2)年までにおよそ172万ha減少し、437.2万haになっています。これは工場用地、道路、宅地等への転用や荒廃農地の発生によるものとされます。

荒廃農地は、2019(令和元)年時点で28.4万ha(佐賀県の総面積+福島県南相馬市くらいに相当)ありますが2008〜2019年までの12年間で大きな変化はなく、おおよそ27〜29万haで推移しています。しかし、このうち「再生利用困難な荒廃農地」の割合は2008年から2019年までに約1.4倍増加し、荒廃農地全体のおよそ67%を占めるようになっています。

また、2021年1月調査では、全市町村のうちの約7割が荒廃農地の5年後の状況について「増加している」と考えていることもわかっており、現在は荒廃農地の発生防止や解消に向けて、農地の貸し借りを仲介する中間管理機構の活用推進、新規就農者の参入促進、遊休農地の課税強化など様々な施策が講じられています。

なお、同じく「使われていない農地」を意味する言葉に「耕作放棄地」がありますが、これは荒廃農地とは別の基準で調査されるものです。それぞれの定義については次項で詳しく述べますが、耕作放棄地は1975年に13.1万haだったものが2015年には42.3万ha(おおよそ富山県の総面積に相当)となり、40年で約29万ha増加しています。

 

 

「使われていない農地」に関する用語について

これまで、このブログでは使われていない(ように見える)田畑をまとめて「休耕地」と呼んできました。

一般的に「休耕地」は、「一時的に耕作していない土地」の意味で使われていますが*5、類似する言葉に「耕作放棄地」「荒廃農地」「遊休農地」などがあります。

ここでは、これら4つの言葉の意味を説明していきます。これらは行政による調査、農家等の自己申告調査、法律(農地法)によって規定されており、その点ではそれぞれ異なる概念です。しかし、「耕作放棄地」「荒廃農地」「遊休農地」は互いに意味が重複・類似する部分があり、同じ土地であっても「耕作放棄地」、「荒廃農地」、「遊休農地」と呼び方を変えることがあります。

 

【耕作放棄地】

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農林水産省が5年ごとに実施する統計調査「農林業センサス」*6に、

「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地をいう。」*7

と定義されています。

つまり、耕作放棄地農家等の作付意思の有無(自己申告調査)によって決まるものになります。

しかしながら、2020(令和2)年の農林業センサスから耕作放棄地の調査項目は削除されています。

上の写真はあくまでイメージで、耕作放棄地かどうかは管理者でないとわかりません。ただ、私が見た限りでは少なくとも2年以上耕作されている様子はなく、畔(畦畔)の痕跡が見られることから、かつては水田だった場所と考えられます。

 

------※その他、耕作放棄地の補足--------

補足①:農地から森林・原野化した土地は農林業センサスの対象外であり、「耕作放棄地」に含まれていません。*8 

補足②:農林業センサスでは5a(約150坪/500㎡)未満の農地を所有する世帯は集計対象外となるようです*9。したがって、小規模な農地の所有者が耕作を放棄した場合は「耕作放棄地」に含まれません。

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【休耕地】

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一般的には「一時的に耕作していない土地」の意味です。

しかし、2012年の農林水産省の発表では、「耕作放棄地」と対になるものとして「休耕地」が説明されています。

そこでは「耕作放棄地」について、「以前耕地であったもので、過去1年間以上作物を作付けしていない土地のうち、この数年間に再び作付けする考えのない土地」と説明されており、逆に耕作の意思がある土地は「休耕地」と記しています*10

つまり、狭い意味では、休耕地も耕作放棄地と同様に農家等の作付意思によって決まるものと言えるでしょう。

上の写真は休耕地と見られる場所ですが、実際のところは所有者でないとわかりません。草刈りなどの管理が行き届いており、荒れ地化していないので、比較的最近まで使われていたと考えられます。

 

------※その他、休耕地の補足------

補足:農林水産省の「耕作放棄地」に関する用語解説には、「過去1年間全く作付けしなかったが、ここ数年の間に再び耕作する意思のある土地は不作付地といわれ、経営耕地に含まれる。」*11と記されており、休耕地に該当すると考えられる土地を「不作付地」と呼んでいることが確認できます。また、「農林業センサス等に用いる用語の解説」では、休耕地に該当すると考えられる土地が「何も作らなかった田」「何も作らなかった畑」と記されています*12

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【荒廃農地】

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荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」に定義されており*13、 

 

「現に耕作されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地」*14

 

と記されています。

荒廃農地毎年調査員(市町村・農業委員会)によって現況調査され、客観的な判断で決まるもの*15

荒廃農地の発生原因に関する調査では、所有者の「高齢化、病気」「労働力不足」などの人的要因、「山あいや谷地田など、自然条件が悪い」などの土地に関する要因の割合が多いことがわかっています*16

上の写真は、2020年に撮影した耕作地帯にある荒れ地で、荒廃農地と考えられます。この土地の過去の航空写真(衛星画像)を参照したところ、2008年頃までは水田として利用されていた様子が確認できましたが*17、それ以降の写真には耕作の形跡は見られず、10年以上放置されていると考えられます。

 

------※その他、荒廃農地の補足------

補足①:荒廃農地は再生利用の観点から【再生利用が可能な荒廃農地】【再生利用が困難と見込まれる荒廃農地】に分類されています(以下、抜粋。)*18

【再生利用が可能な荒廃農地】

「抜根、整地、区画整理、客土等により再生することによって、通常の農作業による耕作が可能となると見込まれる荒廃農地」

【再生利用が困難と見込まれる荒廃農地】

「森林の様相を呈しているなど農地に復元するための物理的な条件整備が著しく困難なもの、又は周囲の状況から見て、その土地を農地として復元しても継続して利用することができないと見込まれるものに相当する荒廃農地」

 

補足②:〈荒廃農地と耕作放棄地の関係について〉*19

「荒廃農地」は土地の状態(現況)を調査員が客観的に判断することで決まりますが、「耕作放棄地」はあくまで農家等の自己申告(作付け意思の有無)によって決まります。

つまり、耕作放棄地は土地の荒廃状況に関する調査ではないので、様々な状態の土地が含まれることになります。

先述したように森林・原野化した農地は調査対象外のため「耕作放棄地」に含まれませんが、これは荒廃農地に該当します。したがってこの場合は「荒廃農地ではあるが耕作放棄地ではない土地」と言えるでしょう。

しかし、場合によっては、耕作放棄地の中に「原野化しているとは言えないが荒廃していると見なされる農地」があると考えられます。この場合は「耕作放棄地でもあり荒廃農地でもある土地」と言えそうです。ただ、この調査での「原野化」の評価基準がわからない(未確認)ので詳細は不明です。

また、耕作放棄地の中には「荒廃しておらず現状で耕作可能な土地」も存在すると考えられます。この場合は「耕作放棄地ではあるが荒廃農地ではない土地」と言えるでしょう。

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【遊休農地】

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農地法第32条第1項第1号と第2号で定義されており、抜粋すると次の通りです*20

 

 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
 その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣つていると認められる農地(前号に掲げる農地を除く。)

 

遊休農地も荒廃農地と同様に、毎年、調査員(市町村・農業委員会)による客観的な現況調査が行われて決まるものです*21

 

また、遊休農地の定義を読むと「耕作放棄地」や「荒廃農地」に意味が近い(重なっている部分がある)と感じるでしょう。

実際、「遊休農地」と「耕作放棄地」はほぼ同じ意味で使われることがありますが*22両者の大きな違いとしては、前述したように調査方法が主観的(農家等の自己申告)か、客観的(調査員による現地調査)かで決まることがあげられます。

また、「遊休農地」「荒廃農地」も意味が重なっている部分があります。荒廃農地であり、かつ遊休農地でもある土地というケースもあり、たとえば農林水産省の資料*23には、農地法で定められている「1号遊休農地」が「再生利用が可能な荒廃農地」 にあたるものと記されています。

このように、詳しく見ていくと「耕作放棄地」、「荒廃農地」、「遊休農地」の定義はそれぞれ異なりますが、意味が重複している部分も多く、ある使われていない農地のことを「耕作放棄地」と呼ぶことがあったり、「荒廃農地」や「遊休農地」と呼ぶことがあるとわかります*24

 

次に、使われていない農地(休耕地・耕作放棄地・荒廃農地・遊休農地)と見られるもの、牧草地・緑肥栽培地と見られるものを紹介していきます。ただ、私は農業未経験者であり、荒廃農地や遊休農地の調査にも携わったことがないため、ここではあくまで個人的な推測で分類することにします*25

 

 

使われていない農地、牧草地・緑肥栽培地 

休耕地(牧草・緑肥栽培地)と考えられる土地

f:id:akichiniiko:20191121213705j:plain岩手県遠野市の耕作地帯を歩いていた時、このような原っぱをいくつも見かけました。

f:id:akichiniiko:20211109153418j:plainここはおそらく休耕地だと思いますが、自然に雑草が生えているのか、牧草や緑肥を栽培しているのかわかりません。ただ、草丈は揃っており、人が育てているようにも見えます。

休耕地によっては、エン麦、ライ麦、イタリアンライグラスなどのイネ科の植物を、雑草抑制、害虫抑制、緑肥、牧草採取などの目的で栽培したり、裏作として植えるケースがあるようです。

f:id:akichiniiko:20191121213718j:plainこの空き地は坂道の途中で見つけましたが、下のほうに入り口らしき場所があります。

f:id:akichiniiko:20191121213931j:plain入り口付近から見た様子。奥の方まで爽やかな空間が広がっています。

f:id:akichiniiko:20211109102940j:plain遠野市は稲作とともに畜産が盛んで、乳牛や肉用牛が多く飼育されおり*26付近には上の写真のような牧草ロールらしきものを見かけます。つまり、先の空き地は牧草採取地として利用されている可能性があります。

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遠野の耕作地帯では、畜舎や農作業小屋とみられる特徴的な形のマンサード屋根を多く見かけます。

f:id:akichiniiko:20191121213002j:plain付近には、ほかにも似たような原っぱがいくつもあります。

この土地も牧草や緑肥の栽培地かもしれません。

左奥へ道沿いに進むと、ふたたび似たような空き地が現れます(下の写真)。

f:id:akichiniiko:20191121205725j:plainこの区画はもともと水田だったと考えられます。畔道で区画が仕切られており、近くには耕作中の水田もあります。

f:id:akichiniiko:20191121205726j:plain同じ空き地を左端から見た様子。

さらに、この区画の左隣にも休耕地があります(下の写真)。

f:id:akichiniiko:20211116140643j:plainこの空き地も、連作障害対策として緑肥を育てていたり、牧草を栽培している可能性があります。

f:id:akichiniiko:20201230223835j:plain敷地内にはイネ科の植物だけでなく、クローバーらしき葉っぱも見えます。

休耕地は思わず入ってみたくなる気持ちの良い空間ですが、人が立ち入ることで害虫や家畜に伝染する病原体を持ち込む恐れがあります。そもそも私有地なので立ち入り禁止ですが、誤って入らないよう注意が必要です。

f:id:akichiniiko:20191121205840j:plain丘の上から見た、同じ空き地の全体像です。

f:id:akichiniiko:20191113203502j:plain先の空き地から少し離れた場所にも、このような休耕地らしき一画がありました。

近くの道沿いで牧草ロールを見かけたので牧草採取地かもしれません。

すぐ隣には耕作中の田畑があります。

f:id:akichiniiko:20191113203510j:plain面積は400坪ほどでしょうか。

f:id:akichiniiko:20191113203515j:plainそばにあった別の一画です。この空き地は、休耕地というよりは道具や苗を置いたり、休憩したりするためのスペースに見えます。あるいは、たんに余ってしまった土地かもしれません。

f:id:akichiniiko:20191121205909j:plain丘の上から見つけた3区画分の草地です。このうち、真ん中と右の区画はきれいな緑で覆われており、牧草や緑肥を栽培しているように見えます。

f:id:akichiniiko:20191121214827j:plain中央の区画。

f:id:akichiniiko:20191121210100j:plain右側の区画。

(no.433〜439 岩手県遠野市)

 

f:id:akichiniiko:20211102185025j:plainここは、先の用語解説の項で【休耕地】のイメージとして紹介した土地です。

耕作されている様子は見られませんが、雑草刈りなどの管理が行き届いており、比較的最近まで使われていた土地に思えます。

(no.440 茨城県)

 

f:id:akichiniiko:20211105222047j:plain9月に訪れた休耕地と見られる空き地です。

一年前までは作物を栽培していた様子が見られましたが、訪れた時は中断しているようです。

f:id:akichiniiko:20211105222220j:plain緑が多い時期にもかかわらず、この土地だけ枯れ草で覆われていました。

草刈りしたばかりかもしれませんが、農地用の除草剤を使ったようにも見えます。

f:id:akichiniiko:20211105222158j:plain敷地内で目を引いたのが、この不思議な緑の箱です。

f:id:akichiniiko:20211105222308j:plain農作業道具入れでしょうか、それとも散水栓や井戸用ポンプなどを保護するためのものでしょうか。他の農地ではこのような箱を見たことがありません。

f:id:akichiniiko:20211105231240j:plainはじめと反対側の端から見た敷地の様子です。

右隣の土地では太陽光パネルが設置されていました。

f:id:akichiniiko:20211105223101j:plain敷地面積は700坪くらいあると思います。

f:id:akichiniiko:20211105222513j:plainこの位置からでも左奥にある緑の箱が目を引きます。

(no.441 茨城県)

 

f:id:akichiniiko:20201103222624j:plain散歩中に見つけた休耕地と見られる空き地です。

f:id:akichiniiko:20201103222643j:plain別の敷地の角から見た様子。

この辺りには農家が点在していること、また、住宅用地でよく見かける排水マスなどが見あたらないことから農地と考えられます。

f:id:akichiniiko:20201103222633j:plainしかし、作付けされている様子はなく、一時的に土地を休ませているようです。

生えている植物は、おそらく雑草だと思いますが、ひょっとしたらイネ科の緑肥かもしれません。いずれにしても、敷地内はきれいで管理が行き届いています。

(no.442 茨城県)

 

f:id:akichiniiko:20210531170701j:plainY字路にある使われていない畑です。

数年前まではゴミ集積ボックスの真後ろまで畑に使われていました。

小スペースなので家庭菜園用の畑かもしれません。

f:id:akichiniiko:20210531170846j:plain雑草に覆われて畑の痕跡はほとんど見当たりませんが、手前のほうに栽培用の支柱が何本か残されています。

しばらく使われる見込みがない土地に見えますが、狭いスペースなので、再利用時の整備はさほど難しくないでしょう。

f:id:akichiniiko:20210531170916j:plain隣のスペースもほとんど使われている様子が見られませんが、奥の一部では何かが栽培されていました。

(no.443 茨城県)

 

 

耕作放棄地、荒廃農地、遊休農地と見られる土地

f:id:akichiniiko:20201230152051j:plainビニールハウスの骨組みが残された耕作放棄地と見られる土地です。

右隣の区画は耕作中ですが、この区画は少なくとも1年以上は使われている様子がありません。

f:id:akichiniiko:20201230151956j:plain骨組みだけになったビニールハウス。

かつては何が栽培されていたのでしょうか。

骨組みは敷地の奥まで伸びていますが、その辺りは草に飲まれつつあります(下の写真)。

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f:id:akichiniiko:20201230152125j:plain 骨組み内部の様子。いずれ全体がクズに覆われてしまいそうです。

f:id:akichiniiko:20201230152830j:plain地面には様々な痕跡が残されています。なお、敷地内は定期的に草刈りが行われているようです。

f:id:akichiniiko:20201230152320j:plain敷地には農作業で使われていたと思しきバケツや、

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折れ曲がった栽培用の支柱などが残されています。

f:id:akichiniiko:20201230152225j:plainここにはブロックのかけら、金網の切れ端などがあります。

f:id:akichiniiko:20201230152107j:plain端から見た敷地の様子。地面には薄く畑の区画跡らしき線も見えました。

f:id:akichiniiko:20211101100639j:plain一年後に再訪しましたが、このように一面が雑草に覆われていました。

ここは、しばらく使われる見込みがない土地と言えそうです。

(no.444 茨城県)

 

f:id:akichiniiko:20211109003002j:plain水田地帯にあった耕作されていない区画です。

広さは、道沿いの幅25m×奥行き50mほどです。ここがもともと農地だったとは断定できませんが、周囲の環境から推測すると田畑や農作業用地(道具置き場や作業スペース)だった可能性があります。

f:id:akichiniiko:20211109003049j:plain撮影時にはチガヤとみられる植物が群生し、穂をなびかせていました。

ある程度の年数が経過して現れるススキ、ブタクサ 、セイタカアワダチソウなどが見当たらないので、定期的に草刈りが行われているか、あるいは、使われなくなってからそれほど年月が経っていない土地かもしれません。いずれにしても、ここは耕作放棄地、荒廃農地、遊休農地などに該当しそうです。

f:id:akichiniiko:20211109003106j:plain 入り口の側溝には車が通れるように蓋がしてあります。

思わず中へ入りたくなるような景色です。

勝手な推測ですが、かつては土地の手前側を農作業用地として使い、奥側では何らかの作物を栽培していたのではないでしょうか。

f:id:akichiniiko:20211109003014j:plain右端から見た様子。

敷地の周囲に土留めの板が設置されていることからも、稲作以外の耕地だったケース、小屋などが立つ農作業スペースだったケースなどが考えられます。

(no.445 千葉県東金市)

 

f:id:akichiniiko:20201103232726j:plain農業が盛んな地域で見つけた空き地です。

周囲には住宅もありますが、ほとんどが畑なので、おそらくここも農地(耕作放棄地)と考えられます。

f:id:akichiniiko:20211115194855j:plainただ、敷地内に耕作の形跡は見当たりません。

左隣の区画では栗の木らしき樹木が栽培されており、右隣の区画は畑でした。

f:id:akichiniiko:20201103232803j:plain右奥の区画の角には樹木が立っていますが、境界の目印として植えたものかもしれません。
(no.446 茨城県龍ケ崎市)

 

f:id:akichiniiko:20211108212813j:plainここは、大きな川のように何区画も農地が奥へ連なっており、耕作されている土地と耕作されていない土地が混在しています。本記事の用語解説で、この中の一画を【遊休農地】のイメージとして紹介しました。

f:id:akichiniiko:20211108212828j:plain通りから見た様子です。

写真の左奥方向に使われていない農地が続いています。農地沿いに小道が通っていたので歩いてみます。

f:id:akichiniiko:20211108190637j:plain小道の入り口付近の土地。少なくとも1年以上は放置されているように見えます。

耕作放棄地、荒廃農地、遊休農地のいずれにも当てはまりそうな土地です。

f:id:akichiniiko:20211108190708j:plain似たような空き地が道沿いに続いています。

f:id:akichiniiko:20211108190722j:plain少し奥まで来ましたが、この辺りの区画にも人の手が入っている様子はありません。

f:id:akichiniiko:20211108190753j:plainさらに進むと、突然整備された区画が姿を現しました。

f:id:akichiniiko:20211108190838j:plainなぜ、この一画だけ人の手が入っているのか不思議です。両隣の土地と所有者が異なるのでしょうか。

f:id:akichiniiko:20211108190820j:plainまた、さらに進むとイネが栽培されてる一画が現れました。

ここも両隣の土地と所有者が異なるケースが考えられますが、他の理由でここだけ利用している可能性もあります。

なお、両隣の区画は荒廃農地に該当しそうです。

f:id:akichiniiko:20211108191347j:plainつづいて、今度は比較的広い区画が稲作に利用されていました。

f:id:akichiniiko:20211108191333j:plainしかし、その隣の区画は、再びこのような原野化した土地です。

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農作業の痕跡は何も見当たりませんが、かつてはここも水田だったと考えられます。そして、この隣の区画からは、下の写真のように耕作中の水田が連なっていました。

f:id:akichiniiko:20211108191007j:plainf:id:akichiniiko:20211108191205j:plain水田の中は所々雑草が生えています。

イネの種類まではわかりませんが、家畜用の米を栽培している可能性もあります。

f:id:akichiniiko:20211108191217j:plainここから先の区画は全て作付けされた土地のようです。

(no.447 茨城県)

 

f:id:akichiniiko:20211108220135j:plain冬(1月)に訪れた使われていない農地です。

f:id:akichiniiko:20211108221659j:plain区画を正面から見た様子。

f:id:akichiniiko:20201103223814j:plainセイタカアワダチソウ、カゼクサ、ススキなどの姿が見られます。

f:id:akichiniiko:20201103223848j:plainそれらが陽に照らされ、金色の印象的な空間ができていました。

f:id:akichiniiko:20200326214520j:plainそして、これは春(3月)に再訪した時の様子です。

f:id:akichiniiko:20211108221309j:plain冬にあった枯れ草のほとんどが取り除かれていました。

冬に訪れた時はしばらく使われる見込みがない土地に思えましたが、間もなく耕作が再開されるのかもしれません。

(no.448 茨城県)

 

おわりに

この記事では、使われていない農地を中心に16か所の空き地を紹介しました。

これらの空き地には性格の違いがあり、行政の調査や法律などの様々な基準で区別されていることが確認できます。

また、土地の管理方法、使われなくなってから経過した時間、取り残された農作業の痕跡、訪れた時期などにより、この種の空き地の景観にも多様性があることが改めて確認できました。

個人的には、荒れ地化した農地は自然(原野)に回帰していくダイナミズムを感じられるところが好きです。このことに関連して、使われなくなってから経過した時間とその空き地に生える雑草・雑木(植生)との関係に興味を惹かれます。空き地の植生の遷移に関する研究はすでに数多くなされているので、少しずつ調べていきたいと思います。

また、農耕の痕跡が残る空き地を訪れると、土地そのものが過去の人の営みを記憶していると感じることがあり、この経験も個人的には印象深いです。なお、毎年行政が行なう荒廃農地や遊休農地の調査は、空き地の景観に関する調査でもあり、その意味で公的に行われる空き地研究と言えるでしょう。もちろん、調査員はその土地の耕作の可不可について評価しますが、その際に景観のどの部分に注目しているかなど、具体的な評価方法を知りたいところです。

本記事の農地面積に関する項で述べたように、日本の耕作放棄地は2015年の調査で42.3万haありました。そして、その年の耕作放棄地に含まれない森林・原野化した農地の多くは「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地」として調査されたと考えられ、その面積は同年(2015年)で16万haと発表されています*27。つまり、2015年の「使われていない農地」(休耕地を除く)の総面積は、少なくとも58万haはあったと推測できます。

2020年の農林業センサスから耕作放棄地の調査が行われなくなったため、2021年現在の「使われていない農地」の総面積はわかりませんが、農業事業者数と耕地面積の減少傾向、再生利用困難な荒廃農地の増加傾向等を見る限り、使われていない農地は増加していると考えられます。今後も、何か有効な施策がない限りこの傾向は続くのではないでしょうか。また、本記事では訪れた地域が限定されているため、いずれは限界集落等の中山間地域や離島などにある使われていない農地も確認したいです。

そして、日本では「使われていない農地」だけでなく、人口減少等による宅地の空き地の増加も大きな社会問題になっています。このブログでもその姿を数多く紹介してきましたが、どちらも国土の荒廃を示すものとして引き続き注視し、可能な限り記録したいと思います。その一方で、空き地をたんに解決すべき社会問題の対象として捉えるのではなく、空き地が持つ別の価値や意味についても探っていきたいと思います。

 

 

*1:出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)、「農業構造動態調査」(長期累年の「年代別基幹的農業従事者数(全国)」2019年調査)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500211&tstat=000001015214&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001034376&tclass2=000001101255&tclass3=000001101256、および、農林水産省ウェブサイト「農業労働力に関する統計」https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.htmlを参照(ともに2021.11.1.閲覧)。 なお、前掲「年代別基幹的農業従事者数(全国)」に記載されている最も古い年は1987年で、農業従事者数は約377万人。

*2:前掲、農林水産省ウェブサイト「農業労働力に関する統計」の令和3年のデータ(「基幹的農業従事者数」130.2万人、「うち65歳以上」90.5万人)をもとに計算。

*3:農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の現状と対策」(2021(令和3)年7月の報告書)、1頁参照。https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-13.pdf(2021.10.29.閲覧)

*4:農林水産省ウェブサイト「令和2年耕地面積(7月15日現在)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/menseki/r2/kouti/index.html(2021.11.12.閲覧)。前傾、農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の現状と対策」1〜11頁。農林水産省ウェブサイト「令和元年の荒廃農地面積について」(2020年10月16日プレスリリース)https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-7.pdf(2021.11.12.閲覧)を参照してまとめた。

*5:「休耕」は「一時、田畑の耕作をやめること。」と定義されています。(出典:松村明・三省堂編修所編『大辞林 第三版』三省堂、2006年、635頁。)

*6:出典:農林水産省ウェブサイト「農林業センサスとは」https://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/about/setumei.html(2021.1.3.閲覧)。

*7:出典:農林水産省ウェブサイト「農林業センサス等に用いる用語の解説」(「第1回 農林業センサス研究会 配布資料」参考資料2、7頁。)https://www.maff.go.jp/j/study/census/2020/1/attach/pdf/index-27.pdf(2021.1.3.閲覧)

*8:参照:農林水産省ウェブサイト「「平成 22 年度の荒廃した耕作放棄地等の状況調査の結果」について」(プレスリリース)の1頁と6頁を参照。https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/pdf/kouhyou5.pdf(2021.1.3.閲覧)

*9:参照:北陸農政局Webサイト「「荒廃農地」と「耕作放棄地」って同じもの?…違うようです」『信調だより』No.98、2019年3月、8頁。https://www.maff.go.jp/hokuriku/kokuei/shinacho/attach/pdf/koho-35.pdf(2021.1.4.閲覧)

*10:前掲、農林水産省ウェブサイト「「平成 22 年度の荒廃した耕作放棄地等の状況調査の結果」について」(プレスリリース)に記載された概念図(6頁)を参照した。この概念図は、この調査と農林業センサスの調査内容等をふまえ、両者の重複関係を把握するために作成された。https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/pdf/kouhyou5.pdf(2021.1.3.閲覧)

*11:出典:農林水産省ウェブサイト「平成27年度 食料・農業・農村の動向」(第190回国会(常会)提出)所収の「用語の解説」を参照。 https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h27/h27_h/trend/part1/terminology.html(2021.10.18.閲覧)

*12:出典:農林水産省ウェブサイト「農林業センサス等に用いる用語の解説」(8〜9頁)https://www.maff.go.jp/j/study/census/2015/1/pdf/sankou5.pdf(2021.10.18.閲覧)

*13:出典:農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査要領」

https://www.maff.go.jp/kyusyu/keikaku/kousakuhoukiti/pdf/jnousintikeihoukitipdfyouryoupdf24.pdf(2021.1.3.閲覧)。「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」は、農林水産省農村振興局長通知に基づき、市町村と農業委員会が共同で実施する。

*14:出典:農林水産省ウェブサイト「平成 23 年の荒廃農地に関する調査の結果について」https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/pdf/kouhyo6.pdf(2021.1.3.閲覧)

*15:農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の現状と対策について」(2020(令和2)年4月の報告書)7頁、https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/Genzyo/PDF/Genzyo_0204.pdf(2021.1.4.閲覧)を参照。

*16:前傾、農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の現状と対策」5頁参照。

*17:参照:地理院地図で当該地の2008年の航空写真を参照。https://maps.gsi.go.jp(2021.11.2.閲覧)

*18:出典:農林水産省ウェブサイト「令和元年の荒廃農地面積について」https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-7.pdf資料1の注5、6参照。(2021.1.4.閲覧)

*19:2012年1月の農林水産省の発表時点では、「荒廃農地」に該当すると考えられる土地を「荒廃した耕作放棄地等」と呼んでいます(前掲、農林水産省ウェブサイト「「平成 22 年度の荒廃した耕作放棄地等の状況調査の結果」について」(プレスリリース)に記載された概念図(6頁)を参照。)。

*20:本記事では、施行日:令和二年四月一日(令和元年法律第十二号による改正)を参照。出典:e-Govポータル、https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=327AC0000000229_20200401_501AC0000000012(2021.1.3.閲覧)

*21:農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の現状と対策について」7頁、https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/Genzyo/PDF/Genzyo_0204.pdf(2021.1.4.閲覧)による。ここでは、調査を行う者(市町村・農業委員会)、調査頻度(毎年の調査)、調査方法(現地調査)が荒廃農地の調査と同じことが記されているが、具体的な調査項目まで同じかどうかは未確認。

*22:愛知県公式ウェブサイト「耕作放棄地・遊休農地解消措置」https://www.pref.aichi.jp/soshiki/nogyo-shinko/0000044843.html(2021.1.4.閲覧)。および、佐賀市公式ホームページ「耕作放棄地(遊休農地)対策について(農地法第30条他)」https://www.city.saga.lg.jp/main/4402.html(2021.10.18.閲覧)

*23:前掲、農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の現状と対策について」7頁(2021.1.4.閲覧)。

*24:1号遊休農地は「耕作放棄地でもあり、荒廃農地でもあり、遊休農地でもある土地」と言えるかもしれませんが、前述したように「耕作放棄地でもあり荒廃農地でもある土地」の存在について未確認のため、断定できません。

*25:農林業センサスでは5a(約150坪)未満の農地を所有する世帯は耕作放棄地調査の対象外となります。ただ、個人が所有する農地の総面積は把握できないため、ここでは狭い農地であっても耕作放棄地として紹介する場合があります。

*26:昭和20年代までは畜産の主流は馬だったが、その後は牛が主流になり、2010年時点で乳牛と肉用牛をあわせて6768頭が飼育されている。参照:「遠野市社会科副読本(WEB版)ふるさと遠野」(遠野市教育委員会・中学校社会科副読本編集委員会)http://www.tonotv.com/members/fukudokuhon/chiri02_1.htm(2021.11.9.閲覧)

*27:前傾、農林水産省ウェブサイト「荒廃農地の現状と対策について」、2頁参照。