空き地図鑑

空き地、更地、使われていない資材置き場、オープンスペース、祭祀場、住居跡地など、「空いている場所」がもつ様々な機能、意味、魅力を探ります。 (※本ブログに掲載の写真および文章の無断使用(転用・転載など)は禁止しています。)

空き地とは何か?

 

空き地研究のきっかけ 

 

私たちの周りにはさまざまな空き地がある。

住宅街にぽつんとある雑草の生えた空き地、長い間使われず放置された資材置き場、

建物の解体後にできた更地、森の中に自然に生まれた空き地等々…。

私は、幼少の頃から、これらのがらんとした場所が好きだった。  

 

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幼少の頃、毎日家の近くにある広い空き地に通い、そこに息づく草花や虫たちを観察したり、誰かが捨てていった空き缶で遊んだり、雨のあとの水たまりを眺めたりしていた。

また、近所の雑木林には、なぜか木の生えていない一画があった。

そこでは、地面に落ちる木漏れ日のゆらめき、風が吹いて葉がこすれる音、林の奥まで続く木立の様子などを、飽きること無く眺めていた。

これらの楽しみ・遊びは、自分が見つけたもので、誰かから与えられたものではない。

そして、どの遊びも、一人で行なうことに意味があった。

この幼少期の体験がきっかけになり、私は使われていない、ぽっかりと空いた場所の魅力について考えるようになったのである。

 

空き地は基本的に殺風景なため、一見するとどれも同じように見えるかもしれない。また、その土地の関係者でないかぎり、特別の関心を向ける機会は少ないだろう。

しかしこれらの土地を眺めていると、それぞれが固有の機能や性格を持ち、魅力があることに気づく。 

ここでは、実際に訪れた様々な空き地たちを紹介しながら、空き地について考えを深め、情報をまとめていきたいと思う。

 

また、空き地の魅力を探る上で、「空いている」ことを哲学的、歴史的に探求することも意味があるだろう。仏教の「空」の思想はもちろん、かつて日本にあった「無縁の領域」、アジール(聖域、避難所)などもこのテーマに関係している。

文学作品や伝記などのテキストに表されたり、絵画や映画などに登場する空き地について調べるのも面白いかもしれない。これらの作品の空き地には、何か共通する意味はあるのだろうか。 

 

興味は様々な方向に広がっていくが、これらのフィールドワークや資料収集をもとに、空き地の分類を試み、その魅力について考察を深めていきたいと思う。

 

 (冒頭写真:no.1 原風景の空き地 千葉県流山市)

 (※さらに詳しい研究の動機については、祭祀場(さいしじょう)の空き地 – 御嶽について - 空き地図鑑  の後半でも述べた。)

 

 

 

「空き地」とは何か 1 -「空き地」という言葉の定義

 

(1)国語辞典(『大辞林 第三版』(三省堂、2006年。)、『大辞泉 増補・新装版』(小学館、1998年。)、『精選版 日本国語大辞典 第一巻』(小学館、2006年。)には、「空き地(あきち)」の意味として次の二つが記されている*1


① 建物が建っていない土地 
② 利用されていない土地 

 

①は、空間構造として空いている場所を指している。

②は、利用の観点からみて機能していなかったり、目的が定まっていない場所を指している。

 

また、「空き地」に似た言葉に、「空地(くうち)」、「更地 /新地(さらち)」、「デッドスペース」などがある。  

・「空地(くうち)」は、一般的には「空き地」の同義語として使われ、前述の①、②の二つの意味をもつ*2

・「更地 / 新地(さらち)」は、一般的には建物が建っていない土地や、手が加えられていない土地を指す*3 

・「デッドスペース」は、「有効に使えない無駄な空間・場所」という意味である*4

 

このように、これら三つの言葉の意味は微妙に異なるものの、前述の①、②の条件のいずれか、または両方に該当することに注目したい*5

 

(2)おもに建築学で使われる「空地(くうち)」の意味 

「空地(くうち)」は、国語辞典においては、前述のとおり①、②の二つの意味を持つ。

ところが、「空地」は、建築学で使われることが多い言葉である。

そして、建築の分野では、おもに①「建物が建っていない土地」の意味として使われる。

つまり、②「利用されていない土地」の意味は含まず、建物さえ建っていなければ、たとえ何かに使われている土地であっても「空地」と呼ばれるのである。

すなわち、使われている道路、駐車場、庭、農地なども「空地」である*6

つまり、ここでは、「建物に対して空いている土地」という意味で空き地が定義されているのである。
また、建築学では、「空地」に類似する言葉として「緑地(りょくち)」「オープンスペース」があり、「空地」の同義語として使われる場合がある*7

( ※ なお「公開空地」については公開空地や広場 1 - 空き地図鑑を参照。)

 

(3)以上をふまえ、私が定義し、注目する「空き地」とは

このように、「空き地」に類する言葉は、「空地」、「更地 / 新地」、「デッドスペース」、「緑地」、「オープンスペース」のほかに、「広場 / アゴラ」、「庭」、「公開空地 /  有効空地」、「造成地」、「休耕地」、「耕作放棄地」、「火除明地」など数多くある。

そして、これらが意味する場所のほぼ全てが、前述の①、②の条件のうち、どちらかまたは両方に当てはまる*8

したがって、私もまた、前述の①、②の条件のうち、どちらかまたは両方を満たす場所を「空き地」とみなす。

 

ただし、①、②の条件は範囲が非常に広い。たとえば、何かに利用されていない自然の状態のままの原野や砂漠、樹林地、水辺地なども①や②に該当する*9。 もちろん、これらの自然環境も「空き地」とみなすことはできるが(詳しくは後述する)、ここではあくまで私が「ぽっかりと空いている」と感じられた場所を中心に扱うこととする。

また、②の「利用されていない土地」も、原則的に「建物が建っておらず利用されていない土地」とし、廃墟などは扱わない。

以上のように、現在のところは、「ぽっかりと空いている」と感じられた屋外、あるいは、半屋外の場所を中心に扱うことにしたい。


 

 空き地とは何か(2) – 「空いている」という感覚

前述したように、ここでは①建物が建っていない土地、②利用されていない土地のいずれか又は両方の条件を満たす土地のうち、「空いている」と感じられた場所を中心に扱ってみたい。

 

そして、この「空いている」という感覚は、特定の何かが存在する場所(場合)と、それが存在しない場所(場合)とを比較することで生まれる。 

たとえば、住宅街にある建物が建っていない土地や、敷地内の建物が建てられていない場所(庭や駐車場)は、建物に対して「空いている」とみなされる場所である。

また、森の中にある木の生えていない一画をみれば、周囲の樹々に対して「空いている」場所とみなされるだろう。

 

 このように、ある場所を「空いている」と感じるかどうかは相対的なものであり、「空き地」とみなされる場所も様々に存在することが予想できる。

それは、前述の建築学で使われる「空地(くうち)」の語義で触れたとおりである。

 

つまり、たとえば建築学に携わっていない人が、広々とした原野や砂漠などを見て、そこを「空き地」とみなすケースは少ないだろう。なぜなら、これらの場所は一つの独立した自然環境であり、何かに対して空いている土地とは感じにくいからである。

しかし、たとえば人口が増加している都市に住む者が、都市の外にある広大な原野や砂漠を見た場合はどうだろうか?そして、その者の職業が都市設計に関わる場合、これらの土地を未開発の「空き地」として捉える可能性があるだろう。この場合は、原野や砂漠も、都市に対して空いている土地とみなされるからである。

このように、「空き地」の定義は一つに定められるものではなく、人や状況次第であると考えられる。 

ちなみに、私が「空いている」と感じ注目する空き地の多くは、周囲を何かに囲まれた空間で、囲まれた中には物がほとんど(あるいは全く)ない場所である。

 

 

★空き地の分類について

 

現在、私が最も魅力を感じている空き地の種類は二つある。

一つ目は、幼少の頃に親しんだ原風景の空き地のように、特定の目的のもとで利用されていない土地である。これは、雑草が生えたまま放って置かれているような空き地や、使えない土地として残されたままにされている場所などである。

二つ目は、聖域の空き地である。これは、たとえば沖縄の御嶽(うたき)のように、古くから祈りを捧げる空間として利用されてきた空き地である。

もちろん、これら以外の空き地も各々がある性格を持ち、時に魅力的である。

 

このように、ここでは様々な空き地を、状態機能成り立ちなどの性格をもとにして次の五つに大別してみたい。

 

・ 利用されていない土地

・ おもにルール(法律や慣例)によって生まれる空き地

・ 文化的機能をもつ空き地

・ 自然によって生みだされる空き地

・ その他(用途不明の空き地)

 

空き地の定義や、この五つの分類について要約し、図としてまとめると次のとおりである。

 

【空き地の分類図】(2019年9月現在)

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分類方法の詳細については、それぞれの分類の始めの記事に記したい。

もちろん、空き地の中には、複数の性格・機能を併せ持っているもの(または、そのようにみえるもの)*10や、はっきりとした性格がわからないものがあった。

その場合でも、基本的には、その空き地がもつ目立った一つの性格や機能、あるいは、その空き地がもつ魅力をもとに「その他(用途不明の空き地)」以外のいずれかに分類することを試みている。

しかし、どうしても判別・分類できないものについては、「その他(用途不明の空き地)」に分類することにした。

 

また、空き地の収集に際して必要があれば、今後も新しい分類項目をつくっていくつもりである。 

*1:『大辞林 第三版』(松村明・三省堂編修所編『大辞林 第三版』、三省堂、2006年(1988年初版発行)、24頁)、『大辞泉 増補・新装版』(松村明監修・小学館『大辞泉』編集部編『大辞泉 増補・新装版』、小学館、1998年(1995年第一版発行)、24頁)、『精選版 日本国語大辞典 第一巻』(小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典 第一巻』、小学館、2006年、56頁)を参照。

*2:前掲、松村明・三省堂編修所編『大辞林 第三版』の700頁、および、前掲、松村明監修・小学館『大辞泉』編集部編『大辞泉 増補・新装版』の740頁を参照。

*3:前掲、松村明・三省堂編修所編『大辞林 第三版』、1030頁、および、前掲、松村明監修・小学館『大辞泉』編集部編『大辞泉 増補・新装版』、1095頁。小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典 第二巻』、小学館、2006年、138頁参照。なお、不動産用語の「更地」は、宅地の一つに分類されており、建物などの定着物がなく、かつ、使用収益を制約する借地権、地上権などの権利が付いていない土地のことを指す(住宅・不動産用語辞典編集委員会編『住宅・不動産用語辞典』改訂版、井上書院、2005年改訂版第5刷(1998年第1版1刷)、89頁、および、日本不動産研究所編『不動産用語辞典』第7版(日系文庫)、日本経済新聞社、2006年3刷(1976年第1版1刷)、82〜83頁を参照。)つまり、この専門用語でも、「更地」は建物が建っていない土地を意味していることが確認できる。

*4:前掲、松村明・三省堂編修所編『大辞林 第三版』、1730頁。

*5:ただし、たとえば「デッドスペース」は、屋外の「土地」に限定されず、建物内空間なども含んでいる。

*6:彰国社編『建築大辞典 第2版 普及版』、彰国社、1993年、423頁参照。

*7:「オープンスペース」に関しては、前掲、彰国社編『建築大辞典 第2版 普及版』の193頁と、土肥博至監修・建築デザイン研究会編『建築デザイン用語辞典』(井上書院、2009年)の54頁を参照した。なお同書『建築デザイン用語辞典』(54頁)では、都市部のオープンスペースの多くは緑地であると説明されている。また、「緑地」に関しても、前掲、彰国社編『建築大辞典 第2版 普及版』と、前掲、土肥博至監修・建築デザイン研究会編『建築デザイン用語辞典』を参照した。同書『建築大辞典 第2版 普及版』では、「緑地」が「敷地内空地を含むオープンスペース(交通用地は含まない)と同義に用いられることもある」(1743頁)と記されている。また同書『建築デザイン用語辞典』にも、「緑地」が「空地」や「オープンスペース」と同義になると説明されている(393頁)。また、「緑地」は、例えば「都市緑地法」などで定義されてもいる。しかし、前述のように「緑地」「空地」「オープンスペース」の三つは同じ意味で使われるケースも多く、ひとまずここでは、建物が建っていない空いた空間という意味を持つことに注目したい。

*8:ただし、繰り返しになるが「デッドスペース」は屋外の土地に限定されず、建物内空間なども含んでいる。また、「火除明地」も、本来の意図としては①、②両方を満たす場所として幕府がつくったものだが、町家として建物が建てられ、利用されてしまうケースも多かったようである

*9:樹林地や水辺地は「緑地」や「オープンスペース」にあたるので、これも広義には空き地となる。

*10:たとえば、自然によって偶然に生みだされた空き地が、天然記念物として保護され、文化的な機能をもつ場合もありえる。また、文化的機能をもつ史跡の空き地が、同時に公園として多目的スペースの役割を担うケースもある。