空き地図鑑

空き地、更地、使われていない資材置き場、オープンスペース、祭祀場、住居跡地など、「空いている場所」がもつ様々な機能、意味、魅力を探ります。 (※本ブログに掲載の写真および文章の無断使用(転用・転載など)は禁止しています。)

建物と建物の隙間

建物と建物の間に生まれた隙間。

その姿に同じものは二つとなく、きれいに整えられているところ、雑然と物が置かれているところ、収納スペースとして使われているところなど様々だ。

これらの表情を観察していくと、管理者や住人の意識が何となく垣間見えたりもする。

また、人目につきにくい隙間には独特の魅力があり、表の世界から隔離された一つの世界のように感じられる。

 

自販機置き場兼駐輪場

ここは自販機置き場兼駐輪スペースになっているようだ。自販機が通りからの視線を適度に遮っていて、裏側は落ち着けそうな良い空間ができていた。 

奥のほうには扉らしきものが見える。ひょっとしたらこの空き地は、もともと旗竿地の一部であり、奥の敷地に出入りするための通路だったのかもしれない。

(no.316  千葉県柏市) 

 

 植栽が施された隙間

写真中央あたり、ビルとビルの隙間に植栽地があった。

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日当たりの悪い場所に植えられた植物は、あまり元気がない印象があったのだが、このヒイラギと思われる植物は生き生きとしている。おそらく、防犯目的でトゲのある植物を育てているのだろう。

壁面には、雨樋とその管理のためと思われる梯子がついていた。
(no.317  東京都小金井市) 

 

通行や建物管理のための隙間

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これは店と店に挟まれた隙間。

f:id:akichiniiko:20191207165355j:plainどちらの壁面にも、雨樋、エアコンなどの配管、排気口、ガス缶やガスメーターなどがある。このように、隙間は建物を維持するために使われる大切な空間なのだ。

(no.318  東京都小平市)

 


この隙間も、雨樋や換気口など壁のメンテナンスに使われるのだろう。

鉢が草に埋もれかかっており、使われなくなってから経過した時間を物語っている。

(no.319 東京都内)

 

 

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清潔感のある白い砂利を敷くことで良い雰囲気が生まれている。所々雑草が生えているところも魅力的で、細長い"庭"として鑑賞することができる。

(no.320 東京都内) 

 

 

繁華街の店にあった隙間。柵の向こうは何も置かれておらず、きれいな空間になっている。手前にはパイロンが置かれ、犬の糞害防止の標識もある。管理者の意識の高さを感じる。

(no.321  東京都武蔵野市) 

 

 

オフィスビルの脇にあった隙間。

壁面は金属板のようなものでできていて、窓、排気口、ガスメーターなどは何もついていない。また、地面に物は置かれておらず、メーターの点検などで定期的に人が入る必要はなさそうである。

(no.322  東京都内)

 

 

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不思議な隙間だ。よく見ると奥のほうは右に曲がれそうな雰囲気がある。アスファルトで舗装されているので、細い私道のようにも見える。

(no.323  千葉県) 

 

 

何枚か飛び石のようにタイルが敷かれている。おもにガスメーターの確認のために使われる隙間なのだろう。

(no.324  東京都内) 

 

 

物置き場としても使われる隙間

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ゴミ箱や鉢などが置かれた隙間。

個人的には隙間の中でも好きな場所だ。ここに魅力を感じた一つの理由は、突き当たりが建物で塞がれておらず、明るく抜けているからだ。こういう場所から、からっと晴れた日の青空を眺めてみたい。

(no.325  茨城県) 

 

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ゴミ箱、モップ、ゴムホース、バケツなどが見え、収納スペースして使われているのがわかる。

奥に置かれた黒い箱は一体何だろうか。

(no.326  千葉県) 

 

 

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鉢、ブロック、木材などが雑然と置かれ、草もたくさん生えている。

こういう隙間は人の目に触れる機会が少ないので、管理も疎かになりやすい。ただ、私はこの景観に日本らしさが表れているような気がして大変魅力的に感じる。

(no.327 東京都内) 

 

壁と敷地の隙間 

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これは建物と建物の隙間ではなく、敷地と壁面の境にできた隙間である。

右の壁の上には家が建っている。おそらくここは、擁壁の管理用地としてつくられた通路だろう。

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ミニサイズの階段と扉のセット。どちらも造りがきれいで良い佇まい。

(no.328  東京都多摩市) 

 

 

この隙間のほとんどは右隣の家の敷地だと考えられる。ただ、左手前に境界標らしき四角い出っ張りがあるので、そこから左側は擁壁の管理用地になっていると考えられる。

(no.329 東京都内)

 

 

狭い隙間

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この隙間は幅が20センチくらいしかない。後述するが、これは建築基準法第63条に則してできたと考えられる。

隙間には奥の方までゴミや資材らしき物が詰まっている。これらが再び明るい世界に出られる日は訪れるのだろうか。

(no.330 東京都) 

  

このように、建物と建物の隙間は、きれいに植栽が施されているケース、物置きとして使われているケース、通路として使われているケース、長い間放置されているケースなど様々だ。

最後に、この隙間の成り立ちや機能について調べたことをまとめておきたい。

 

 

【隙間が生まれる理由】 

(1) 建築基準法に定められた建ぺい率によって、敷地内に建物が建っていない部分が生まれる。それらは庭、駐車場、通路として使われたり、壁面のメンテナンスなどの建物の管理に役立てられたりする。また、隣り合う建物と建物の間に生まれるスペースは、日照や通風の確保にもなっている。

これについては、過去記事でも簡単に触れた。→建ぺい率と空き地 - 空き地図鑑

 

(2) 民法234条によって建物と建物の隙間が生み出されている。 

民法第234条第1項には、「建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。」と記されている*1

しかし、相隣者の間で合意がある場合、その地域において境界線まで建物を建てられるという慣習がある場合、建築基準法第63条の規定*2に該当する場合などには、この民法の規定に縛られる必要はないという*3

 

【隙間の役割について】

民法234条によってつくられる隙間の目的が、採光、通風、通行などにあることが最高裁判所の判例*4の中に記されている。

ここでは、原審の判断として記された「同項により保護される採光、通風、建物の建築・ 修繕の便宜等の相隣土地所有者の生活利益」という記述が確認できる。また、本判決(最判)に反対した伊藤正己裁判官の意見の中にも「民法二三四条一項は、日照、採光、通風、通行等の生活環境利益を確保するためにも規定されたものと解すべきである。」という記述が確認できる*5。 

なお、この民法第234条の距離制限について足立清人は、明治初期の各地の慣習を導入したものと言われ,当初,1尺5寸とされ,その目的は,雨水を隣地に落とすことにあった,とされる。」*6と述べている。

この記述は、かつて建物と建物の隙間に採光、通風、通行などの現在考えられている役割とは異なる目的があったことが示されていて興味深い*7当時そこには雨水を効率的に排水する何らかの工夫が施されていたのだろうか。私は明治以前の日本の建築物に詳しくないし、古い民家も僅かしか見たことがないので、この辺りについてはよくわからない。勝手な推測だが、当時の隙間の多くは砂利の犬走りなどですっきりとしていて、本記事で紹介したような、雑然と物が置かれた風景はあまり見られなかったのかもしれない。(本記事no.320-322のようなスッキリした砂利の空間が近い姿だったのだろうか。)

時代によって隙間の風景が様々に変化しているとしたら、他にどんな姿の隙間があったのだろうか。これらについてもいつか調べてみたい。

なお、1尺5寸(約45㎝)の規定については、司法省編・瀧本誠一校閲『日本民事慣例類集』*8の「東海道」の項にそれらしきものが記されており、ここでは伊勢国安濃郡の慣例として「隣地に近づき建物を為すには、一尺五寸を避くるを例とす」*9と記されている。そして同頁には、伊賀国阿拝郡の慣例として「隣地の界に家屋を建るとき、雨落を隣地へ流すも双方の義務として相容るゝ事なり」*10とも記されていた。

この二つの慣例が民法第234条の成立において、具体的にどのように関係しているのか(そもそも、この伊賀国の慣例も関係しているのか)詳しくはわからない。また、これらの記述は、それぞれ別地域の慣例として分けて採録されている。そのため、この部分を読む限りでは「1尺5寸の隙間が設けられた目的が雨水を隣地に落とすことだった」とははっきり読み取れなかった。

しかし、これらは建物と建物の隙間の歴史について記された資料として興味深く、これを読んでいたら、他の地域にもこの慣習が存在していたのか気になってきた。

気になる点をまとめると、

・かつての日本では、時代や地域によって建物と建物の隙間の姿はどのように異なっていたか?

という疑問や、

・海外における建物と建物の隙間の景観はどのようなもので、また、隙間に関する規則、歴史、性格は、日本と比較してどう異なるのか?

という興味が湧いてきた。

様々な時代や地域における「隙間」を観察することで、他文化を理解する一助にもなるのではないだろうか。 

*1:出典:e-Govウェブサイトhttps://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#793 2019/12/4閲覧。

*2:建築基準法第63条(第65条から平成30年の改正に伴い63条に変更。)には「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。」と記されている。(出典:e-Govウェブサイトhttps://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325AC0000000201#764 2019/12/4閲覧。

*3:参照:柏市オフィシャルウェブサイト「民法の相隣関係の規定」http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/140600/p001582.html 2019/12/4閲覧。

*4:平成元年9月19日 民集第43巻8号955頁

*5:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52179

全文→ http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/179/052179_hanrei.pdf

*6:足立清人「建築基準法65条と民法234条1項の関係について ー最判平成元年9月19日民集43巻8号955頁ー」北星学園大学経済学部編『北星学園大学経済学部北星論集』第57巻第1号(通巻第72号)、北星学園大学、2017年9月。なお、ここでも同法234条の50㎝の距離保持義務が規定された理由について記されている。

*7:同様の指摘は足立も述べている(同上。)

*8:司法省編・瀧本誠一校閲『日本民事慣例類集』、白東社、1932年。

*9:同上、268頁。

*10:同上、268頁。