空き地図鑑

空き地、更地、使われていない資材置き場、オープンスペース、祭祀場、住居跡地など、「空いている場所」がもつ様々な機能、意味、魅力を探ります。 (※本ブログに掲載の写真および文章の無断使用(転用・転載など)は禁止しています。)

余ってしまった土地5

 

美大校舎裏の空き地

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武蔵野美術大学の校舎裏に、人があまり立ち入らない空き地がある。

上の写真は、校舎階段(2号館)の踊り場から撮影したものだ。

学生時代、私は気が向いた時にここを訪れ、そのガランとした雰囲気を楽しんでいた。

近年、ここに工事関係事務所と思われるプレハブ小屋が建ってしまったが、基本的に学生や職員が往き来する場所ではなく、人気はほとんどない。

そして、下の写真は、校舎内からこの空き地へ向かう所の風景である。 

f:id:akichiniiko:20180821232818j:plainこういう、暗がりから明るい所へ抜ける空間には、なぜか魅力を感じる。

f:id:akichiniiko:20181217171823j:plain空き地は広すぎず狭すぎず、適度な広さで居心地が良い。

敷地内は雑草が伸びてきていた。そして、端の方には三角コーンなどの工事道具やガラクタのようなものまで、色んなものが雑然と置かれていた。あたりは静かで、まさに「無用の空間」といった佇まいである。

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冒頭の写真を撮った階段。

こことは別に、メインの広い階段とエレベーターが建物の反対側に設けられている。そちらに比べると、この階段の利用者は少ない。

f:id:akichiniiko:20180821233449j:plain空き地には様々な物たちが放棄されていた。右側にあるブルーシートで包まれたものは壊れた作品か、あるいは作り損なった作品かもしれない。 

f:id:akichiniiko:20180821233456j:plain踊り場の下にも、作品の素材らしき物が放置されていた。

制作を終えていらなくなった材料だろうか。

あるいは、いつか使おうと思った素材をここに置いておき、そのまま忘れ去られた可能性もある。

f:id:akichiniiko:20180821233609j:plain空き地は校舎の壁面に沿って奥へ続いており、隣の校舎(4号館)へと繋がっている。その途中にも、棄てられた段ボール箱があった。

f:id:akichiniiko:20180821233618j:plainおそらく彫刻学科の学生が置いたものだろう。箱には「馬あし用」の文字がみえ、素材と思しき垂木がたくさん入っている。作品が完成し、用済みになったものと思われる。

f:id:akichiniiko:20180821233006j:plain隣の校舎(4号館側)から見た様子。左側には下りの階段があり、この階段からも先と同じ校舎(2号館)へ入ることができる。 

f:id:akichiniiko:20180821233104j:plain階段を下りた校舎風景。右側の階段を上がると再びさっきの空き地に出る。

f:id:akichiniiko:20180821233116j:plainこの階段スペースも、ほとんど人が通らないし、落ち着いていて好きな場所である。

しかし、わざわざここに階段がつけられているということは、もともとこの空き地には利用目的があったのかもしれない。

下の写真のように、敷地の一部は板材が埋められデザインされている。(その上には用途不明の竹材、リヤカーが置かれている。)

つまり、ここは当初、憩いのオープンスペースとしてつくられた可能性がある。

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このように、この空き地は美大らしく、生まれ損なった作品壊れた作品と考えられるもの、そして作品制作の過程で出たゴミなどの行き場になっていた。また、一部ではあるが、将来使う予定の素材置き場としても機能しているようだった。

作品をつくる過程で、制作者は日々様々な形で素材と接することになる。

その中で、余った材料の処理に困った経験は誰しもあるだろう。

かさばるのでアトリエには置いておけない素材、捨てるには移動や解体が面倒な素材、今後何かに使えそうなのでとりあえず残しておきたい素材…。

それらのうちの一部がここに流れ着くのではないだろうか。こうして、物置き場ともゴミ置き場ともいえない変な空間が形成され、その「なんでも受け入れてくれそうな雰囲気」が魅力になっているのだと思う。

(※2019/11/21追記。上で紹介した空き地は2018年に撮影したものだが、その10年前に撮った画像を発見した(以下)。この頃、この空き地はさほど荒れておらず、楽園っぽい雰囲気があった。)

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 (no.239 東京都小平市)

 

 高架下の閉鎖空間

吉祥寺駅近く、JR中央線の高架下に白い柵で囲まれた空きスペースがあった。

おそらく、高架の支柱と道路との間に、緩衝地として計画的に設けたのではないだろうか。その後、違法駐輪などを防ぐ目的で柵がつけられ、このような姿になったと考えられる。

(2021.6.6.追記:この空き地は、前を通る道路の幅員拡張予定地として確保されているのではないか、との指摘を読者の方からいただきました。調べたところ、ここは「3・4・13号井の頭本田線」にあたり、幅員16メートルが計画されてるようです*1。したがって、このような幅員拡張予定地の空き地は「開発や利用を待つ空き地」に分類できそうなので、今後同じような空き地を取り上げる際はカテゴリーの変更を検討したいと思います。)

この辺りは市街地なので、高架下の多くは有効活用されている。ある場所では駐車場として使われていたり、また別のところでは飲食店やドラッグストアなどが入っていたりする。

この空きスペースの隣にも店が入っており、写真奥の黄色い柵が見える辺りがその搬入口になっている。なお、搬入口を挟んで反対側にも似たような空きスペースがある。

アスファルトの様子からして、スペース内は最近舗装されたみたいだ。

f:id:akichiniiko:20190324231728j:plainそして、そこにはなぜかキャスターが一つと、コンクリートのかたまりが転がっていた。キャスターは、店で使う台車から外れたものと思われる。

f:id:akichiniiko:20190324231743j:plain一方、このコンクリートの破片はどこから旅してきたのか不思議だ。前の道を通ったトラックが荷台から落としたものだろうか?あるいは、遠くで解体工事をした際に出た破片が、遥々このあたりまで転がってきて、誰かがここに退けておいたとも考えられる…。

f:id:akichiniiko:20190324231505j:plain反対側(店の搬入口)から見たこのスペースの姿。 

f:id:akichiniiko:20190324232041j:plainそして、店の搬入口を挟んで、反対側にも似たような空きスペースがある。ここも、先のスペースと同時期に整備されたと考えられる。一つ目のスペースとは少し雰囲気が異なるが、ここにも謎めいたものが存在している。

f:id:akichiniiko:20190324232428j:plainまず注目したいのは、地表に生える雑草だ。

アスファルトで舗装されているはずなのに、あまりに自然に(ランダムに)生えていておかしくないだろうか。 
f:id:akichiniiko:20190324232331j:plainf:id:akichiniiko:20190324232254j:plain傷んだアスファルトの割れ目から生える雑草は、私も今までに何度も見たことがある。

しかし、このように、あたかも土の地面から生えるように、アスファルトに根付く草は初めて見た。

f:id:akichiniiko:20190324232845j:plainそして、もう一つ気になるのがこの観葉植物っぽい樹木。

なぜ、この一本だけここに取り残され保護されているのか不思議である。

f:id:akichiniiko:20190324232545j:plainこのスペースを整備する上で、この程度の大きさの木なら簡単に取り除けるだろう。

しかし、わざわざ残してあるということは、ひょっとしたら珍しい種類の樹木なのかもしれない。あるいは、記念樹などの何か重要な意味を持っている可能性もある。

f:id:akichiniiko:20190324233037j:plainこのように、これらは一見したところ何の変哲もない空きスペースだ。しかし、よく観察すると、それぞれに魅力的なものや、想像力を掻き立てられるものが存在する面白い空間だった。

(no.240 東京都武蔵野市)


三角形の空き地 

f:id:akichiniiko:20190324225749j:plainこのブログでもいくつか紹介してきた、街中でよく見かける三角形の空き地。

f:id:akichiniiko:20190324225755j:plainこの空き地は隣接する店の敷地のようだ。

今は使われていないが、おそらく駐輪スペースや物置き場として使われることもあるのだろう。

三角形の空き地が有効利用されるケースとして、野立て看板が立てられたり、駐車場や駐輪場になったり、自動販売機が置かれることがある。しかし、使い道がないくらい小さな場所も多く存在する。

なお、このような余ってしまった場所のことを、残余氏氏は「残余地」と呼び、その魅力について数多く紹介している。

http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-White/4339/rojyo-top.htm

残余氏 (@hachiozin) | Twitter

 

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(no.241 東京都武蔵野市)

 

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同じく、住宅街の角地にある三角形の空き地。

f:id:akichiniiko:20181219212242j:plain空き地の中には水道メーターの蓋がある。f:id:akichiniiko:20181219212135j:plainそして、反対側には木製の柵が設けられていた。これを見る限りでは、ここは隣家の敷地の可能性がある。しかし、ここには外構は設けられておらず、庭として手入れされているようにも見えない。また、駐車場は別の場所に設けられていた。いずれにせよ、まだ使い道が定まっていない土地のようだ 

(no.242 茨城県)

 

f:id:akichiniiko:20190325162425j:plain赤い小門の前に設けられた、意味ありげな三角の空きスペース。

地面が微妙に盛り上がっているのは、少しでも敷地内に上り下りしやすくするためだろうか。

ここが日常的に使われているかは不明だが、例えば道路工事などで玄関口が使えなくなった時は、ここが代わりの出入口になると考えられる。その場合、この空きスペースは、出入口前の緩衝地としての機能を持つだろう

(no.243 東京都)

 

f:id:akichiniiko:20190112152957j:plainここは武蔵小金井駅前の通りで、再開発が盛んな地域だ。

写真のように、道沿いには整備されたばかりのバス営業所(京王バス)があり、その土地と歩道との間に三角の空き地ができていた。

空き地の右下の角に境界標らしきものが見える。もしこれが境界標だとすれば、ここは京王バスの敷地内ということだろう。

いずれにせよ、ここは交通量の多い交差点なので、出会い頭の事故を防ぐための余白として設けられたと考えられる。

(no.244 東京都小金井市)

 

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コンクリートブロックで囲われた極小の空き地があった。

建物の角への衝突を防ぐためにつくられたと考えられる。しかし、この周囲から浮いた姿によって、小さな隙間の存在も目立っていた。

f:id:akichiniiko:20190103151637j:plainなお、隙間の中は未確認である。

(no.245 東京都) 

 

f:id:akichiniiko:20181221225316j:plain この空き地を撮影しようとカメラを構えたら、近くのレストランの店員が黒板を置いていってしまった。

確かに、ちょうど看板が収まるスペースである。白黒ではなく、色が少しついていた方が目立ちそうだが。f:id:akichiniiko:20181221225205j:plain

裏側には花壇が置かれている。葉は青く、ちゃんと水やりなど手入れされているようだ。

こんなに小さなスペースが生かされているとは思わなかった。もともとは無用の場所だったかもしれないが、後から意味が与えられ魅力的な空間に変わったのだろう。

(no.246 東京都)

(※2019.3.27.追記: 本記事を含め、これまで当ブログで紹介してきた三角形の空き地の中には「隅切り」とみられるものが多くあります。これらは行政の指導によってつくられるため、当ブログの中では【ルールによってつくられる空き地】に分類できそうです。(もちろん、単に使い道がなくデッドスペースになっているケース、いずれ利用されることを見越して残されているケースもあるでしょう。)次回以降、分類については修正を検討する予定です。)

*1:参照:武蔵野市公式ホームページhttp://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/818/2012-6.pdf2021.6.6.閲覧)