上の写真は、知念城(沖縄県南城市)の城外にあるノロ屋敷跡である。
「ノロ」とは沖縄における女性祭司のことで、地域の祭礼を主導する役割を担っている。かつて琉球王国では、制度として女性祭司が組織され、ノロはこの組織の末端に位置していたという*1。
ここにあった屋敷がいつ建てられたかは不明だが、おそらく琉球王国時代と思われる。
王国によって再編されたノロ制度や組織について詳しくはないが、この屋敷は知念城の傍に併設されていたので、比較的地位の高いノロが住んでいたとも考えられる。
当時の宗教者が住む屋敷は、同時代の他の屋敷と比べてどのような違いや特徴があったのだろうか。
空き地の周囲は石垣と樹木で囲まれており、その内部には写真のように屋敷の基礎部分が残されていた。
そこを観察すると、石積みによって階段が形づくられていたり、スペースがいくつか区分けされているのが確認できた。
文化財として保護されている建物跡地の中には、建物の痕跡がほとんど見あたらないものもある。そのような場所では、使われていた頃の建物の姿は想像しにくい。
しかし、ここでは基礎部分の痕跡がみとめられるし、現地の標識には知念城の聖地としての歴史が記されている。したがって、それらの情報をもとにここを眺めれば、いくらか過去の姿は想像しやすくなるだろう。また、当時の建築や風俗に関する知識を学べば、一層その姿も見えてくるはずである。
(no.83 ノロ屋敷跡 / 沖縄県南城市)
*1:大島建彦・薗田稔・圭室文雄・山本節編『日本の神仏の辞典』、大修館書店、2002年(初版2001年)、「ノロ」991〜993頁を参照。